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つりがね草

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どうしようもなく空に憧れた日のこと

キミの姿を、私の目は追ってしまう。

数瞬前まで――
私は目の前の本にしか意識を向けていなかったのに、キミがソファーに座る私の前を横切るのに、私は目敏く気付く。
熱心に読んでいたはずの文章の事などはすっかりと忘れて、キミが何をするのか、じっと見つめてしまう。
リビングに入ってくるキミ。
ジーンズにシャツのラフな格好。
――そのシャツは確かキミのお気に入りでしたね。
右手にはマグカップを持っていて。
――中身は空みたいですね、おかわりを注ぎに来たのでしょうか。
顔には微かに笑顔を浮かべている。
――キミになにか良いことがあったのでしょうか?
そう聞くことも出来ないまま、キミは私の方も一度も見ずに通り過ぎて行ってしまう。
そうして私はキミが見えなくなるまで目で追って、ようやく本に視線を戻すことが出来る。
さっきまで読んでいた場所はどこだったかを探すのに数秒かかって、ようやく本の世界に戻ることが出来る。

しかし、私は気付かない。
キミに気付いて、目で追ってしまう私に、私は気付けない。


キミの声を、私の耳は捉えてしまう。

私が家の廊下を歩いている時。
書庫で次に読む本を読んでいる時。
もしくは夜に、二人分の寝息の聞こえる自分の部屋のベッドの上でまどろみに身を預けている時。
――微かに聞こえてくる、
氷柱姉に詰問されて、何かを弁解しているキミの困り果てたような声を。
妹達と一緒に家の庭を駆け回って、追いかけっこをしているキミの遊び声を。
そして、私が入ることを許されてない夜のリビングで、姉たちと楽しそうに談笑しているキミの笑い声を、私の耳は聞き取ってしまう。
少しでもキミの声を感じたなら、私はまるで細い糸を手繰るかのように、キミのその声に耳を傾けてしまう。
女性しかいない我が家の中で、キミの低い声は、私の耳に心地良く響いて聞こえてくる。

しかし、私は聞こえない。
キミの声を聞こうとする私の心の音が、私は聞こえない。


そして、何よりも――
キミの熱を、私は敏感に感じ取ってしまう。

春の風の強い日、私の乱れる髪を押さえるように、キミに撫でられた頭が。
夏の日の帰り道、コンビニで秘密のアイスを買った後に、キミと繋いだ手が。
秋の肌寒くなってきたリビングで、静かに読書をしながら、キミと寄り添った肩が――
キミの側を離れてもいつまでも熱を持って、キミの存在を訴え続けるのです。
まるで、キミの熱が私の中に残っているかのようで。

……そういえば、キミに髪を梳かされたことがありましたね。
あれはそう、冬休み中の、のんびりと時間の流れる私達の部屋での出来事でした。
キミにブラッシングをされていた星花姉や夕凪姉が、次は私の番とばかりに、
それはもう熱心に、キミのそれを薦めてくるので、興味が湧いて一度だけやってもらいましたが、
ああ、あの時ほど、自分の軽率な行動を後悔した事はありません。
キミの手が私の髪を撫でる。お世辞にも綺麗とは言い辛い私の癖のある髪を、キミの手が滑る。
とても繊細で、しかし力強く、私の髪を梳いて。
気が付くと――キミは、私の中に、熱を生み出していて。


そう――
その時私は、私に気付きました。

冷たい私の中で見つけた、暖かい形。
私の想い――
かつては「愛」と評した私の気持ち。
家族愛、兄妹愛、親愛――どのような愛でもいいです。
キミへと向かっている、私のこの気持ちは「愛」などではなく――

「恋」なのだと。

書物の中では何度となく追体験した言葉、しかし。
一度自分の身で起これば取り返しのつかない、厄介な代物なのだと――
気付いてしまいました。

兄さん――
私は、どうしたらいいのでしょうか?

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