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つりがね草

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柔らかいタオル

「へんなのー」

家の庭で遊んでいた下から二番目の妹の青空は、自分の名前と一緒の名前の青空を見上げながら不思議そうな声をあげていた。

「おひさまぴかぴかしてるのに、あめこんしてる!」

それは青空の初めて知る天気だった。
自分の知らなかったことを見付ける喜びに溢れる歓声を上げた青空は、そのままばんざいと手のひらを太陽に透かしてみる。
見上げた先には秋晴れの空が広がっている。
太陽はまだ空高くで輝いていて、青空の手を赤く透けさせる光を放っている。
なのに、今も青空の手に、顔に、ぱらぱらと雨粒がぶつかっていた。
雨が降っているのだ。
とても静かな雨が降っていた。

雲から雨が落ちてくる。
詳しい概念など小さい青空は全く知ったことではないけれど、雲と雨のその関係くらいは体験で知っていた。
雨が降る時はいつも雲と一緒。
そう思っていたのに――この不思議な天気が何だろう?
青空の好奇心は強く強く刺激されたけれど――

「そらちゃん、ぬれちゃうからあっちいこ?」

そんな青空の手をさくらが掴んで家の方へと引っ張った。
今も雨に濡れ続ける青空を心配したさくらの行動だ。
気がつくと、青空の服も髪も雨に打たれ、びしょにしょではないけれど水気を含んでしっとりと濡れている。
このままではお姉ちゃんたちに怒られちゃう!と思った青空は、さくらと一緒に急いで家の縁側まで逃げ込んだのだ。


「お姉ちゃん、お外の天気が変なの!」
「どうしたの?」
窓を開けて家の中に飛び込んだ二人は、ちょうどそこにいた蛍に、興奮気味に外の様子を報告する。
「お日様が出てるのに、雨が降ってるの」
「え、ほんと!?」
それを聞いた蛍は、慌てた様子で窓際まで駆け寄ると外を覗き込む。
そこでようやく何が起こってるか理解したようだった。
「きゃー大変!洗濯物取り込まなきゃ!」
さくら達と入れ違いに蛍が庭へ飛び出して、そこに干してある洗濯物を手当たり次第に掴んでは抱え、家の中へと放り込む。二人の隣には洗濯物の山が築かれていく。


「ほれ、ふたりとも。これで体を拭くのじゃ」
ぽかんと外の様子を眺めていた二人へ、ふかふかのタオルが差し出される。
さくらが振り返ると、そこには観月と小雨が立っていた。観月が二人分のタオルを抱えている。
「ありがとう観月ちゃん」
さくらはタオルを受け取ると、ぺたんと床に座って帽子を膝の上に置き、タオルを頭から被る。
隣では同じように頭からタオルをかぶってうろうろとしていた青空が小雨に捕まっていた。
びっくりしたような、楽しそうな青空の声がタオルの下から聞こえてくる。

さくらがタオルから顔を出したときには、観月は空を見上げていた。まだ雨は降り続いている。
「ふしぎなの、みづきちゃん。晴れなのに雨なの」
観月はふむ――とさくらの方を見ずにそのまま話を続ける。
「これはの、さくら、天気雨というのじゃ」
「てんきあめ?」
うむ、と観月は頷く。
「晴れているのに、天気がいいのに雨が降る。ちょうど今みたいな天気じゃな、このことを天気雨というのじゃ」
「ふうん――」
さくらは窓の内側から外を見る。天気がいいのに降っている雨というのはやっぱり不思議に見えた。
雨の粒が落ちる時に太陽の光で一瞬だけ輝いて、庭には輝く光の筋が何本も見えた。蛍はその隙間をかいくぐるように、未だ洗濯物と格闘している。残りはあと僅かだ。
「――それにの、さくら」観月はささやくように言う。「この天気にはある秘密があるのじゃ」
「どんなの?」
さくらは体を拭く手を一旦止めて、観月の方を向いた。観月は相変わらず空を見上げている。
「天気雨が降る時は、狐が婚礼……結婚式をする“しるし”と言われてるのじゃ」
「結婚式? わあ、すてき――」
観月は婚礼の儀と言いかけ一瞬口をつぐみ、さくらが分かるように結婚式と言い直した。
実際それは功を奏したようで、さくらは結婚式に思いを馳せた声色になった。
「じゃあ、ねこさんの結婚式にはどんな雨が降るの?」
観月はそんなそくらの答えに苦笑して、
「天気雨が降るのは狐の結婚式の時だけじゃ。だから、天気雨のその別名を――」
空を見ていた顔を、ようやくさくらの方に向けると、
「狐の嫁入りというのじゃ」
そう教えてあげた。

さくらは観月の顔を見て驚く。
何故なら、観月が――観月の瞳から、一筋の涙が流れていたからだった。

「みづきお姉ちゃん、ないてる……?」
「……ああ、これは――きっとさくらか青空の雨雫が顔に当たっただけじゃ」
観月はそう言って、服の袂で目元を拭う。
「ほら、泣いていなじゃろう?」
笑いかける観月の顔は、もうちっとも淋しそうには見えなかった。

でもさくらは、観月のその言葉が嘘だと思った。
結婚式はとっても楽しいものだってさくらでも知っている。
でも、そんなとても楽しいはずの、結婚式の話をしていたのに――
さくらの方を振り向いた観月は、なんだか、さくらがはっと息を飲んでしまうほどに、
とてもとても、淋しそうに見えたからだった。

でもさくらにはそれ以上何も言えなかった。
――何を言ったらいいのか分からなかった。

「みづきちゃん!お外がダメならお部屋で遊ぶの!」
でも何かをしないといけないと思ったさくらは、とにかく行動することにした。
それが合っている事かどうかはわからないけど、自分の中の気持ちを信じて動いてしまう。
それはさくらの中に密かにある、頑固な所だったけれど――
自分でもびっくりするくらいに大きな声を上げて、ぐいぐいと観月の服を引っ張って。
「わ、待つのじゃさくら!」
観月は引きずられるように部屋を後にする。さくらのどこからそんな力が出ているのか、観月にとっては天気雨よりもそっちの方が不思議だった。
でも、そんな事を言いながらも観月の顔は微笑んでいた、さくらの優しさにこっそり感謝するように。
「そらもいく!」
二人の後に続いて、青空も駆けてついていった。

あとに残るのはタオルが2つとさくらの帽子と、そして小雨。
小雨は最初はさくらの大声と行動にびっくりしていたけれど、今は落ち着いて散らかってるものを片付け始めていた。

ふと外を見ると天気雨が止んでいた。
その空には裏山に架かる、大きな虹が出ていた。

蛍はそれを見ながら、やれやれと洗濯物をまた干し始める。
小雨はそれを手伝うために、サンダルを履いて庭に出ることにした。
そんなサンダルの中には雨水が入り込んでいて、ひんやりと、
小雨の靴下をちょっとだけ濡らしたのだった。


(終わり)

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