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つりがね草

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おまいり


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新緑、参道、石畳。
赤い鳥居に狛狐。
とある神社への長い石段を駆け上がる、軽い足音が周りの雑木林へと響いていく。
とんとんとんとリズムよく、止まること無く登っていく。

はたして姿を現したのは、巫女服を身に纏った少女だった。
まだ小学校にも行っていないくらいの幼い子――その背丈と和服姿で、階段をここまで駆け上がるのは少しばかり苦労したことだろう。少女はふぅと軽く息を吐き、頬を紅潮させて、しかしその瞳は待ちきれないといったように、何かへ爛々と輝かせていた。

ほんの少しだけ息を整えた少女は、すぐに後ろへ、階段の方へ振り向き大きく声をかけた。
長く伸ばした黒髪を弧のように翻して、ニ言、三言。
返ってきたのは男の声だ。まだ若い男の声。
声に続いて、その男が石段を駆け上がってくる足音も聞こえてきた。

そして現れた男は、少女よりもずっと背が高く、少々線の細い――優しそうな青年だった。
どことなく彼は、彼女と雰囲気……というよりは、オーラが似ていて。
――二人は歳の離れた兄妹だろうか。
もっとも、兄の方は妹と一緒に神主の服を着ていたりはせず、普通の洋服なのだが。

服の裾を引っ張りせがむ妹を、息も絶え絶えに兄は宥めて、そして、一息ついて。
ようやく兄は財布の中から五円玉を取り出した。
――ここは神社、二人の前には社があり、そして賽銭箱がある。
取り出したお賽銭を兄は賽銭箱へ投げ入れ――ようとはせず、それを妹へと手渡した。
鈍く光る五円玉。妹はそれを穴を通すように眺めて。
妹もまた賽銭箱へ投げ入れようとはせず、急にしゃがみ込むと、懐から何かを取り出してこそこそとやり始めた。
兄からは妹の手元は頭の影になっていて、何をしているのか分からない。
不思議に思った兄が、何をしているのかと妹に尋ねたら――

ちぃん、と――

金属と金属がぶつかる音がして、妹の右手が高々と頭上に掲げられた。
とてもとても満足そうな顔がその下にはあって。

妹の手の中では、五円玉と五円玉とが、朱色に染められた一本の紐に通されて、ぴたりと一つに結ばれていた。
不恰好な固結び。ひもの余った部分の長さが左右で違っているけれど。
それでも観月は誇らしげに、その「おまじない」を兄に見せた。

二つの五円玉が、もう一度ちりんと音を奏でる。
――鈍く光る五円玉は兄の渡したものだろう。
しかし、この真新しい五円玉と朱色の紐は?

ああ――兄はそれを見て、その意図を察したのか。
少し恥ずかしそうに、でも嬉しそうに、笑う――


おまじないは結局、賽銭箱の中に納められた。
二人で一緒に、二礼二拍手一礼。
顔を上げた二人は、笑い合い、手をつないで、今度はゆっくりと帰っていくだろう。
――しかし、その直前、妹は確かにこちらを振り向き、見ると、

「わらわの願いを、宜しく頼むのじゃ」

…………そう告げて、ここを去っていった。


幼いと思っていたら、なかなか侮れぬ子だ。

願いを叶えうのも吝かではない。
こんな閑居に参られたのだ、むしろ喜んで力になろう。
でも、残念なことに、私の力は必要ないのだ。

何故なら、声には出していなかったけれど、ああ――それは、お主の願いではない。
お主達の願いなのだから。

(終)

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