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つりがね草

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5「さくらさくら」

観月SSです。
=======

――さくら さくら

のやまもさとも

みわたすかぎり――

む?兄じゃ。聞いておったのかの?
ふむ……どうじゃったかの?わらわの歌は――
上手かったかの?

フフ――

嬉しいのじゃ兄じゃ♥
またわらわの歌が聞きたくなったらいつでも言うのじゃ!

――この歌のように
見渡す限り桜の花が咲いておったら、それはどんなに素晴らしい景色かのう♥
わらわは兄じゃに肩車をしてもらって、そこを一緒に散歩するのじゃ!
うむ!
きっと、幸せいっぱいじゃぞ?

じゃが――

今年はなかなかお花見の天気に恵まえなかったのじゃ。
冬に逆戻りしたような寒い日が続いて、しまいには春の雪が空からちらりと下りてきて
姉じゃ達はわらわ達の服装をどうしようかと、気まぐれな天気にあたふたしているうちに――
桜はすっかり、散ってしまった。
――今はもう葉桜じゃ。

桜の下で酒宴をはる山の物の怪も、どこか悲しそうにしておった。

……。

口惜しいのう。
わらわも家族皆でするお花見を楽しみにしていたのじゃ。
薄紅に染まる満開の桜、涼やかな風がそれを散らして
その下で食べる蛍姉じゃの特製のお弁当――
重箱に入った甘い卵焼きが……

……むう、違うのじゃ兄じゃ!

花見は本来、端見と書くのじゃ。
端とは先触れの意味――
予祝のことじゃ。

何の予祝かと言うとの?
実はの、稲の豊作祈願の予祝なのじゃ。

サオリ、サツキ、サミダレ、サナエ、サヲトメ、サナブリ――そしてサクラ
すべて頭に「サ」が付く仲間じゃ。
この「サ」は神を意味していての、共に田植えの神事を行うべき期間を示しているのじゃ。

つまり花見には神をもてなすという意味もあっての
神と人とが飲食を共にし、酒を酌み交わし、芸能を行い神を楽しませる。
これが本来のお花見なのじゃ。

じゃから――
花より団子でも良いのじゃぞ?
もちろん花を見るのも良いことじゃ。
何事もほどほどが一番なのじゃ。

うむ。

それで、兄じゃはどっちを選ぶのじゃ?
花か、団子か――それともわらわか
どれが一番好きかの?

フフフ♥

兄じゃがわらわの事を選んでくれたら、わらわは兄じゃを想って歌を贈るのじゃ♥

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4「せなか」


綿雪SSです。
================

何となく床に座りながら本などを読んでいたら、
「お兄ちゃん」
「ん?綿雪?」
ふいに綿雪が名前を呼びながら後ろから首に腕を回して、ぴったりと背中にくっついてきた。
そしてそのままじっと背中に抱きついている。

「えっと、ユキ――
「どうですかお兄ちゃん?」
背中越しの会話、綿雪の声が耳元で聞こえてくる。
「どうって?うーん……ユキは軽いね?」
「もう、そうじゃないです!」
ぎゅっとユキが背中に体重をかけてくる、それでも苦しくなくてとっても軽い。

「吹雪ちゃんが教えてくれたんです」
「うん、なにを?」
「『カーディガンを羽織って背中をあっためるだけで、感じる寒さは大きく変わります』って」
「へぇ、そうなんだ」
きっとユキがベッドから起きるときに、吹雪がカーディガンをかけてあげたりしたのだろう。
そんな光景が目に浮かぶ。
「それで、お兄ちゃんの背中が少し寒そうに見えたのですが、ユキのカーディガンじゃお兄ちゃんの背中にはちっちゃいから――
ユキの長くてやわらかい髪がはらりと流れ、視界に入ってくる。
とても良い香りがするのだけど、髪が首をくすぐってちょっとこそばゆい。
「ユキがお兄ちゃんをあっためようと思ったんです」
なるほど、それで――
「それでお兄ちゃん、あったかくなりましたか?」
――うん、ユキのおかげですごくあったかいよ、ありがとう」
ユキが抱きついている背中はユキの温かさで、もうぽっかぽかだ。
「えへへ、よかったですv」
抱きつく力がちょっと強くなった。


「うん、じゃあユキにお礼しないとね?」
「え?」
読んでいた本を一旦脇において、俺の足の間に座れるように、ももをぽんぽんと叩いてユキを促す。
「さあユキ、こんどは俺がユキをあっためる番」
「いいんですか?」
「もちろん!」


さっきと逆に、ユキの背中が俺にくっつく。
腕は首にではなく、そのままユキの体を抱きしめるように。
俺の顎がユキの頭の上に来て――
ちょうど、ユキが俺にすっぽりと包まれる形だ。

「どうユキ?」
「ええと――お兄ちゃんはちょっと重いです」
「あ、ごめんってユキ?」
ちょっと力を弱めようとして、仕返しされたことに気付く。
「ウフフvでもユキの好きな、お兄ちゃんの重さですv」
弱めようとした力を追いかけるようにユキが寄りかかって、胸に頭を押し付けてくる。
「それに、お兄ちゃんもとってもあったかいです」
「さっきユキが温めてくれたおかげだよ?」
「ありがとうございます、ユキは今、なんだかとってもしあわせです――v」

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1「側に」


「兄さんお帰りなさい」
「ただいま吹雪」

「雪が降っていますね」
「うん」
「ちょうどユキの様な雪が降っています」
「ダジャレかい?」
「違います」

「それにしても、今日はとても寒いね」
「帰ってきたばかりの兄さんの手はとても冷たかったですね」
「積もってるのが珍しくて、ちょっと雪で遊んできたんだ」
「兄さんは子どもっぽいですね」
「あはは、吹雪も後で遊ぶかい?」
「明日まで雪は残ってないと思いますよ?」
「それはざんねん」

「気象観測によると、急速に発達した低気圧と寒気がこの雪をもたらしているようです」
「そういえば海晴姉さんも天気予報でそんなことを言っていたなぁ」
「この雪では海晴姉も身動きがとれないでしょうね」
「交通機関が雪に弱いからね、麗がハラハラしてたよ」
「それは海晴姉を心配してですか?」
「吹雪もわかってるくせに」
「両方ですね」
「両方だね」

「ねえ吹雪」
「なんですか?」
「吹雪はやっぱり寒い方が好き?」
「唐突ですね」
「そうでもないよ、今日はとっても寒いから、なんとなく気になってさ」
「理由が質問に繋がっていないような気がするのですが」
「そう?」
「……」
「……」
「確かに私は寒いのが好きです」
「うん」
「寒い方が調子が良いですし、思考もクリアになります」
「うんうん」
「枕草子にもあるように、冬の朝の静けさにぴんと張り詰めたような寒さは、とても「をかし」と思います」
「吹雪のそんな物言いは新鮮だね」
「おかしいですか?」
「可愛いと思うよ?」
「そうですか」

「暑いのは苦手です」
「うん」
「ですが、寒い中で暖かいものに触れるのは嫌いではありません」
「……」
「……だからこうしてキミの側にいるのは、決して悪い気分ではありません」
「そっか、それを聞いて安心したよ」
「はい」

「吹雪はあったかいね」
「兄さんは少し、暖かすぎると思います」

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キュウビとこたつ

キュウビとこたつのお話
実質超短編二話分?

=============================

こたつ。
みぞ姉がよく陣取っていて
ちっちゃな子たちが中で遊んでしまう
そんなこたつ。

キュウビはそのこたつがとてもとても大好きなようだった。
一人でのんびりしていることもあるのだけど、
よく観月と一緒にこたつに入ってまったりしている。

よくこたつに入った観月の膝の上に乗っていたり
観月の隣でこたつ布団から頭だけ出してこちらに満足そうな顔を見せていたり
しっぽの先だけ出ていてたまにぴこぴこ動いたりするのを見かける。
そして、観月がこたつに入っているのにキュウビが見えない時――
これがこちらにとって、一番注意しなくてはいけない状況だった。

外から帰ってきてすぐに、
寒い寒いとうっかり勢い良くこたつに足を入れてしまうと――
(どんっ)
「ンキュウ!?」
「あっ!ごめん!」
間違ってキュウビを蹴ってしまうことがあるからだ。
「クーン!」
「よしよし、どこか怪我はしておらぬかの?」
キュウビが観月に泣きつく、と同時にこっちに恨みがましい視線。
「ごめんキュウビ!大丈夫だった!?
「まったく兄じゃ、注意せぬと駄目じゃぞ?」
観月が赤ちゃんをだっこするようにキュウビを抱えながら背中をやさしく撫でる。
どうやら怪我をしているような場所はなくて一安心。
「ほらキュウビ、兄じゃもああ言っておることじゃから、のう?」
……キュウッ」
なだめられたものの、キュウビはまだ怒っているようだった。
じっと睨まれた次はそっぽを向かれてしまった。
「ええと、ごめん……
今いくら言っても聞いてくれそうに無さそうで
大人しく引っ込んでおくしかなさそうだった。

「キュウビや、兄じゃが行ってしまうぞ?」
……キュウッ」
「外から帰ってきたばかりのようじゃ、兄じゃも寒いじゃろうにのう……
キュウ……
「まあ非は兄じゃにあるからのう、キュウビが嫌と言ってしまえば――
…………
のう?
……ココン!」

「うむ、それで良いのじゃv」

それからは足を入れるときはゆっくり入れるように注意するようになった。
こたつ布団をめくって中を確認するのが一番だけども――
女の子ばっかりの家だとそうもいかない。
こたつの中でのびのびと伸びているキュウビを見たかったものだ。


「王子様、お部屋に戻るんですか?」
こたつから出た俺に通りがかった春風さんがそう聞いてくる。
「うん、もう見たい番組も終わったからね」
「それじゃ……
春風さんがこたつの中を確認する。
「もう王子様、こたつが点けっ放しですよ?」
「あ、えーと……ごめん春風さん」
カチリとこたつの電源が落とされる。
でも厳密に言うと点けっ放しじゃない。

春風さんが去ってから少しして――
「コン……
もぞもぞとこたつ布団が動く。
出てきたのは小さな鼻先――
名残惜しそうに這い出てきたのはキュウビ
実はこたつの中にはまだキュウビが残っていた。

点けっ放しはすこし甘かったかな
一瞬そんなことも思ったけど
悲しそうに部屋を出て行くキュウビの後ろ姿を見ていたらそんなことも思えなくて――

「?、王子様お部屋に戻らなかったんですか?」
「うん、部屋に戻って勉強でもしようと思ったんだけど――
キュウビがとても可哀想に思えたから
「こたつから離れられなくてさ、こっちで勉強することにしたんだ」
「もう、ウフフ――v、王子様もこたつに夢中ですねv」
今キュウビはこたつの中でのびのびしていることだろう。
俺の伸ばした足の上に腹ばいに乗っかっている、ような感触。
少し重たくて足がしびれそうだけど、心地の良い重さだった。

「あっ!それじゃあ春風も、ちょうど家事も終わりましたし――
はっとした春風さんがずいっとこちらに身を乗り出す。
「春風もここでお勉強していいですか?王子様がわからないところがあったら教えてあげます!」
たぶん、と最後に少し自信なさげにちょっと加えて、期待したように上目づかいでこっちを見てくる。
もとよりこっちは断る理由もなくて
「ええと、お願いします春風さん」
「はいっ!任せてください王子様!春風にばっちり頼ってくださいね?」
そう言うやいなや春風さんはそそくさと部屋を出ていった。
きっと勉強道具を持ってくるのだろう――

――それから、春風さんに次いでホタ、ヒカルに、星花や小雨と人が増えて
キュウビが追い出されてしまうほど賑やかな勉強会になってしまったのは、また別のお話。


(終)


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