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つりがね草

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連載:キュウビの話おしまい

キュウビの話その1その2その3その4

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頭に乗っているキュウビはそのまま
歩きやすかった山道を離れて道なき道を進んで行く。

――いや、入ってみて初めてわかったけれども
ここには道のようなものがあった。
なんだか木が道のようによけているというか
導いているというのか……
注意して見ると木が柱廊のように連なっているように見える。

山道に比べて下草が多いものの
地表に出ている根も少なくて、こっちはこっちで歩きやすく、
キュウビの道案内がなくても行くべき方向はなんとなくわかるのだった。
もともと道になってた場所かもしれない。

落ち葉を踏みしめながら木に習って進んで行く
頭上からの注意が無いので正しい道なのだろう。
キュウビは観月と違う、俺の頭の上でもうまいこと乗っていた。

そうしてしばらく歩くと――
木の回廊の終わり。
どうやら目的地に到着したようだった。
「行きたかった場所って、ここ?」
「コン!」

そこにあったのは古びた社だった。
俺の身長よりは小さな社で、たまに庭とかに見かける社よりも少し大きなものだろうか。
周りを見回しても鳥居やそういったものは何も無かったけれど
放置されたという風ではなかった。

俺がそうして観察をしていると、
キュウビが俺の頭の上からぴょん飛んで地面に降り、
社の前に駆け寄ってこっちを振り向いた。
近くに寄ると、キュウビは社を見上げて示すように一つ鳴く。
「うん?」
社の表には両開きの扉があり、ちょうどその真ん中には
何やら難しい字と図が描かれた御札が貼られていた。
キュウビはそれを指しているようで
もしかして――

「これを剥がせって?」
「コン」
キュウビはそれを触れない様だった。
なるほど、だから俺の助けが必要で――
ということはキュウビはこの中に用があるってことらしい。
だけど……

「ねえキュウビ、これ剥がした瞬間に大変な事にならない?」
「ココン!」
大丈夫!と言いたげに胸を張っている。
「う、ううむ……
専門的な知識はさっぱりだけど、御札ってことは何かを封印する目的なわけで――
観月は前に日記で、
「兄じゃのオーラはめったな大物以外は遠ざける効果があるようじゃ」
と言っていたけれど
封印されてるってことは、つまりそのめったな大物の可能性が高いわけで。
すごく、やばい気がする。

「ええと……
「?」
キュウビのほうをちらりと見ると、どうしたの?という風に首をかしげられた。
そんな目をされるとすごく困る。
社自体は怪しげな雰囲気ではないのだけど……

……よし!」
迷って、協力することに決めた。
結局のところ、キュウビに対する信頼だった。
いつものキュウビを見ていてそう思った。
キュウビが観月に悪いことをするわけがないのだ。

御札は再利用のために、できるだけに丁寧に剥がしていく。
あとちょっとのところで一旦止めて、深呼吸。
「ええいっ!」
最後だけ御札を勢い良く剥がす。
と同時に扉の前から飛んで離れる。
さらにはすぐ貼り直せるように走る姿勢を取っておく。

…………
――何も、起こらない?
急に扉が開くとか、急に風が吹くとか、急に天気が暗くなるとか――
そんな事は起こらなかった。
ひとまずほっと胸をなで下ろす。
何のための御札だったのだろう?

「ココン、キューン」
キュウビはびびっている俺の横でそう言うと
社の中に消えるように入っていった。
初めて見たので驚いてしまう。
ある程度の壁とかは透けて通れるのだろうか?
そういえば、今朝はあれで俺の部屋に入ってきたのかもしれない。

すぐにキュウビは帰ってきた。
帰りは扉を頭で押し開けて社の中から出てきた。
なんですり抜けてこないんだろう――と思ったのだけど、
出てきたキュウビは口に箱をくわえていたのだった。

そのままキュウビは足元まで駆け寄ってくると、俺にその箱を渡した。
木製の綺麗な絵で彩られた長方形の漆塗りの箱で
朱色の細い紐で結わえられている。
そして少し拍子抜けするほど軽い。
中を見るようなことはしないけど――
何かが入っているような重さじゃなかった。
ということは、この箱自体がプレゼントなのだろう。
たしかに観月が好きそうだ。
キュウビもなかなか粋な贈り物をする。
これをここに取りに来たのか――

「これで大丈夫?」
「キュウンv」
社の扉に御札を貼り直しながらキュウビに聞く。
帰るときになって、キュウビはまた俺の頭の上に居場所を移していた。
キュウビは目的を達成出来てちゃんとお祝い出来るのがとても嬉しそうだった。
観月の喜ぶ様子を見ているのかもしれない。
その様子は、とても可愛らしかった。
こういうのはキュウビにとって初めてなのかもしれない。
だとしたら、キュウビのドキドキな気持ちは少しだけわかる。
「プレゼントはする方がしあわせ――」
やっぱり、キュウビもウチの家族だった。
頭の上なのでもうちょっとだけ落ち着いてくれるとやりやすいのだけど。

しっかり貼って少し離れて社を見てみる。
「よし!」
これで元通り、元通りであってください。
なんとなく一度お辞儀をしてからその場所を離れる。
キュウビはくっついてて落ちなかった。
さて、ひとまず元の道に戻ろう。


――それから
それから山道に戻って、無事に下って、家に帰って、キュウビと別れた。
その後観月とキュウビがどうなったのかは知らない。

キュウビは内緒で俺のところに来たのだから
当然、俺が関係していたことまで内緒にしないと意味がない。
プレゼントを調達するところまでがキュウビのお願い。
そこまでだから、その先まで首をつっこむのは要らぬおせっかいだ。
野暮ってものだろう。

でも、観月はとても喜んだみたいだった。

なんでわかるのか?

――それは
それは観月が――


「フフv実はの兄じゃ――
とっておきのヒミツをこっそり伝えることがおかしくて仕方ないように

「キュウビからの、誕生日プレゼントを貰ったのじゃ!」
そして、とてもとても嬉しそうに
俺にそのことを教えてくれたからだ。

「「誕生日、おめでとう!」」



(終)


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