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つりがね草

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あめのちはれ ところによりあらし

(5月20日の日記より)


「うぅ、もう食べられない……ケプ」
「夕凪ちゃんはしたないよ……でも星花も同じです…」


無理に夕ご飯をおなかに詰めたせいで、
ぐったりと調子の悪そうな声が部屋の中に落ちてこぼれます。
星花と夕凪は二人とも、自分の机につっぷしていました。
「夕飯前にあんなにお菓子を食べるからですよ――まあ、気持ちはわかりますが」
吹雪の少し呆れたような声が二人にちくちくと刺さります。
「だってぇ……」
「……」
重たくなった星花のおなかと――こころ
仕方がないとすっぱり諦めて、気持ちを切り替えようと思っても、
前々から楽しみにしていたことだけに、なかなかすっきりとした気持ちになれませんでした。
やけ食いも裏目に出てしまって――やっぱり、残念です。


「はぁ……アスレチックに行きたかったなぁ」
「……うん」

ぼんやりと星花は思い出します。

――遠足当日、今日の朝


星花はガラス戸の、てるてる坊主の向こう側を見上げていました。
お日様が眩しいはずの空には、どんよりとした雲が広がっていて、しとしとと、庭に雨が降らせていました。
これで遠足の行き先は、フィールドアスレチックから歴史科学館に――
「……はぁ」
自然にため息も出てしまうというものです。


それと反対に
「んもーっ!どうして!?」
夕凪はばたばたと腕を振り回して、不満を爆発させていました。
「うぅ~っ……」
こうやって暴れても、どうしようもないのは夕凪にもわかっていましたが、
それでも何かをしていないと気が済みませんでした。


「ごめんなさいなのじゃ姉じゃ……」
ぽつりと、観月がそんな事を言います。
「ううん、観月ちゃんは悪くないよ!」
星花は慌ててフォローをします。
観月ちゃんを気に病ませちゃうくらいにそんなにがっかりしてたのかな――


そんな事を思いだして、
おでこを机にぐりぐりとしながら、星花は自分をちょっと反省します。
やっぱり何時までも悲しんでるのは良くありません。


――今日は宿題も無いし
もうおふとんに入っちゃおうかな?
明日は土曜日、学校もお休みですし
きっと明日になればこんな気持ちともおさらばです――


そうしてやっと、星花がむくりと顔をあげたところに、
コン。コン。と
ドアが軽くノックされます。


「はい?」
「ちょっといい?」
「あっ、お兄ちゃん!?」
ドアを開いて顔を覗かせたのは兄でした。
ぐんにゃりとしていた星花は、ぱっと起き上がってぱたぱたと身だしなみを整えます。
「どうしたのお兄ちゃん…?」
夕凪は苦しそうに顔だけ兄の方に向けて返事をしています。
「あ、うん。二人とも今日は残念だったね…」
「はい……」
「それでなんだけど、もし良かったらなんだけど――」

「来週の土日にさ、みんなでアスレチックに行きたいなって思うんだけど、どう?」
「ほんとっ!」
ぐったりしてた夕凪が机から飛び起きます。
「うん、ほんと」
「行く行く!星花ちゃんも行くよね!」
「あ、もちろん行きます!」
びっくりしてしまいましたが、もちろん星花も行かないわけがありませんでした。
「やったやったぁ!お兄ちゃんありがとう!」
夕凪が喜びのあまり兄のおなかに飛びついて、ぐりぐりと頭を押し付けます。
星花もぴょんぴょんと飛び跳ねたいくらいに心は踊っていました。
さすがはお兄ちゃん様です!星花達のために――感激です!
「吹雪ちゃんも行くよね?」
「私も行きたいです――ですが」

「天気予報では来週末は雨だったような気が――」

「え?」
吹雪の言葉に星花と夕凪がきょとんとしました
そして、その数秒後――
「「えぇーーーーっ!」」
二人の絶叫が家の中に木霊しました。


「そんなそんな折角のお兄ちゃんとのお出かけなのに!」
「海晴お姉ちゃんのイジワル!」
「それは違うと思うのですが……」
「今から晴れの準備したら晴れになるかな!?」
「それだよ星花ちゃん!一週間もあるから夕凪のマホウで絶対晴れにできる!」
「そ、そうだよね!みづきちゃーん!」
「夕凪もとびっきりのマホウ考えないと!」
ばたばたと星花と夕凪は、慌てて部屋から出ていきます。
後には吹雪と兄が残りました。


「……行っちゃったね」
「兄さんは――晴乞いやてるてる坊主を信じていますか」
「ん……ノーコメントで。でもまあ、なんとかなると思うよ?」
「それはどういう事ですか?」
「週間天気予報の、しかも最後の方の天気は外れやすいからね」
「それには同意します」
それに――と兄は続けます。
「あの勢いだったら、雨雲を吹き飛ばして、きっと晴れに出来ると思う」
「――はい、私も少し、そんな気がします」


遠くからはドタバタとした音や声が聞こえてきます。
星花はまたホワイトルームに向かったのでしょう。
夕凪は霙にマホウを教えてもらいに行ったのかもしれません。
週末に向けての準備が忙しそうでした――

「――あ、しまった」
「どうしたのですか?」
吹雪が怪訝な声をあげます。
「いや、まだチビ達には言ってなくて――」
兄が言い終わる前に、パタパタとたくさんの軽い足音がそれを遮ります。
「フェールーゼーン!」
マリーの呼ぶ声が聞こえてきました。

「フフ――それは大変ですね、頑張ってください」
「うん、頑張るよ……」
小さな足音達はもうすぐそこです。


晴れよりも雨よりも先に――
騒ぎすぎで氷柱の雷が落ちるのは、もうちょっと後のことでした。

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