つりがね草
- SS置き場です。 9割方BabyPrincessの二次創作になります。
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もくもくウィッチ!
夕凪SSです。
もくもくっと、みなさんも子供の頃にきっと経験があるはずです。
=====
「んふふー♪」
ある暑い夏の日の部屋の中
あっちに行ってはそわそわと
こっちに行ってはクフフと笑い
落ち着きなさげな夕凪の姿がそこにありました。
同じ部屋にいる星花は夕凪のそんな動きが気になってしまいます。
「ちゃんと宿題してないと怒られちゃうよ?どうしたの夕凪ちゃん、なんだかすごく楽しそう」
「えへへ、実はね――」
くるり!と夕凪は星花の方向を振り向いて、
実は言いたくうずうずしてたみたいに、何かを喋ろうとしたその時
「ただいまー」
「――あっ、帰ってきた!お兄ちゃーん!」
ぱっ、と星花と話そうとしてた事さえもすっかり忘れて、夕凪は部屋から飛び出していってしまいました。
星花はあっけに取られてしまいます。
「……行っちゃった…もう、なんだろう夕凪ちゃん?お兄ちゃんを待ってたのかな?」
なんだかよく分かりませんが、星花も兄をお出迎えするためにドアをちゃんと閉めてから夕凪の後を追いかけることにします。
一方玄関ではタオルを持った蛍が兄を迎えに出てきていました。
「ただいまー、ふぅ、あっつい……」
「お帰りなさいお兄ちゃん、お疲れ様です――タオル使いますか?」
「うん、ありがとう。ちょっと急いで帰ってきたら汗がもう大変なことに――」
そこへ、やけに騒がしい足音が二階から下りてきます。
「お兄ちゃんお兄ちゃん!貰ってきてくれた?」
一直線に玄関に向かうその足音の主は、もちろん夕凪でした。
玄関に現れた夕凪は蛍の隣をするりと駆け抜けると、玄関に上がったばかりの兄にぶつかるようにくっつきます。
「こら夕凪ちゃん、ちゃんとおかえりなさいしなきゃダメでしょう?」
「おかえりなさい!ねぇ貰ってきてくれた!?」
「もう……」
「あはは、ただいま夕凪。ほら、ちゃんと貰ってきたよ」
「わ!ありがとお兄ちゃんv」
兄は持っていた白い箱を夕凪に手渡します。
その箱は暑い外から帰ってきたのにひんやりとしていて――夕凪はその冷たさにとっても満足します。
軽い足音で星花が追いついてきました。
兄におかえりなさい、と笑顔を向けて、夕凪の側まで歩いて行きます。
「お兄ちゃん、何を買ってきたんですか?」
「今日のデザート、星花も見てみなよ」
そう言って星花に見えるように開けられた箱の中身。
そこには色とりどりの、いろんな種類の美味しそうなアイスが入っていました。
「わあ、美味しそうです!――夕凪ちゃんが待ってたのってアイスだったんだ?」
割と自分のことは棚にあげて、星花は食いしん坊な夕凪のことをクスクスと笑います。
「ううん、違うよ?」
「えっ、違うの?」
「今日のユウナの目的はアイスじゃなくてこっち!」
ばばん!と夕凪は箱の中を大げさな動きで指差します。
なんだろう?と星花がそこを覗き込むと――
指の先のアイス――の間には白い煙をもわもわと出している、真っ白なかたまりがありました。
「……ドライアイス?」
「うん!ドライアイス!お兄ちゃんに貰ってきてねってお願いしてたの」
わくわくとした、楽しそうな夕凪の元気な声が玄関に響き渡ります。
「夕凪の夏休みの計画だい2だん!白い煙でマホウ使いっぽくなっちゃう実験!」
「アイス選ぶのは早い者勝ちだよー」
「夕凪はいーちご!」
「うーん、どれにしようかな…?」
「私はバニラにします」
「わらわもバニラにしようかの」
「まっちゃじゃないの?」
「……わらわがいつもそういうのを食べると思ったら大間違いじゃぞ?」
「まあいいけど、私はレモンにするわ?」
アイスがあるよと一声かけると、アイスの箱の周りに小さい子達が集まって、きゃいきゃいとアイスを選び始めます。
机に届かない子達は精いっぱい背伸びをして、箱の中を覗き込もうと頑張っていました。
兄は後ろから抱えてあげて、中を見るお手伝いをしてあげます。
「それじゃ、いただきまーす!」
「……アイスもいいけど、食べてるうちにドライアイス溶けて無くなっちゃうよ?」
スプーンを握りしめて今にもアイスの蓋を開けようとしていた夕凪の動きがピタリと止まります。
「うっ、じゃあそっちを先に……」
アイスは冷凍庫に保存しておくことが出来るけれども、ドライアイスはそうも行きません。
兄に注意されて、夕凪は名残惜しそうにスプーンを置こうとします。
「ふむ、そうしたら今度はアイスが無くなってしまうかもな?食いしん坊な誰かさんが勝手に食べて――」
「う、ううぅ……」
そこに今度は霙が、チョコレート味のアイスを取りながらさらりとそう言いました。
夕凪はアイスを抱えたまま、どうしたらいいか分からず凍ってしまったようにぴたりと動きが止まってしまいます。
「お姉ちゃぁん……」
「はいはい、霙ちゃんもいじめないの。ちゃんとアイスは冷蔵庫の中に取っておいてあげますからね?」
春風が夕凪の頭を撫でてあげて固まりを溶かしてあげると、アイスを受け取って冷蔵庫の中に持って行きます。
「――はい!これで大丈夫です♡」
「ありがとうお姉ちゃん――じゃあ夕凪準備するね!」
「あ、ドライアイス弄るのは危ないからここでやってね?」
「はーい!」
ドライアイスを扱うのはちょっとだけ危ないので、一応兄が実験の監督役です。
夕凪はキッチンに走ると、ガラスのコップに水を入れて戻って来ます。
「ドライアイスは手で触らないこと、わかった?」
「うん!まかせて!」
ドライアイスの固まりをスプーンですくいながら夕凪は答えます。
「ほら、ちゃんと手元見て――あと出てきた煙は直に吸わないようにね?」
「さっきから夕凪おねえちゃまは何をしているの?」
夕凪と兄がやいやい騒いでいると、なんだろうとアイスを食べながらマリーが近寄ってきました。
ギャラリーが増えて、夕凪の目がきゅぴんと輝きます。
「ふふーちょっと待ってて!面白いもの見せてあげる!」
夕凪は集まってない他のみんなにも呼びかけて、自分の周りに集めます。
「みんな見てて、いくよー!」
みんな注目してることを確認すると、慎重にドライアイスをスプーンですくって――
そっとドライアイスをコップの中に落としました。
ぽちゃん、とその瞬間、水の中のドライアイスはコポコポとたくさんの泡を作り出し
その泡が水面まで浮かび上がって、コップの上からたくさんの白い煙を吐き出します。
それはまるで、魔法使いがクスリを作っている釜のように――
「やったあ成功!すごいすごい!」
「わぁ…!」
「もくもく!」
「おお、すごいのじゃ!面妖な――」
小さい子達はアイスを口に運ぶのも忘れて、その光景に目を輝かせ始めます。
溢れ出た煙はふわりとテーブルの上に広がって、マリー達の手元まで流れてきます。
「きゃ、なにこれ冷たい!」
「ほんと、つめたい…」
「ひえひえ!」
押し寄せる煙に小さい子達は少しだけ怖がって、触れたときのその冷たさに驚きながら、
安全なことが分かると楽しそうに小さな手のひらを煙の中に泳がせていました。
「ねえ下僕、あれ、なにやってるの?」
そんな夕凪達の様子を見ていた兄の隣に、氷柱がやってきます。
「ドライアイスの実験だよ、水の中に入れるやつ」
「ふぅん――このアイス用の?今じゃ保冷剤の方が普通よね」
「うん、入れてもらったんだ、夕凪にねだられて――まあ今日は暑かったから保冷剤じゃ間に合わなかったと思うよ」
氷柱はソファーに座ると、アイスを食べ始めます。
「ん、おいし。それにしてもドライアイス――懐かしいわね」
「氷柱も昔は同じことやったのか?」
「一度ね、でも夕凪とは違うわよ」
「?、というと?」
「……たぶん見てれば分かるわ」
「ねぇ夕凪お姉ちゃま、これはどうして白い煙が出ているの?」
白い煙に手をかざしていたマリーがそんな事を夕凪に聞いてきます。
夕凪はえへんと胸をそらすと、自信いっぱいに答えました。
「実は今、夕凪はマホウのクスリを作っているのだ!今入れたマホウのアイスでこの水から白い煙を出して――」
「違います夕凪姉、あれはドライアイスです。ドライアイスは二酸化炭素の固体で、二酸化炭素は常温で気体であるため、固体から気体へと昇華が起こり――夕凪姉?」
「???」
「夕凪姉聞いてますか?」
「う、うん……でもよく分かんない…」
「マリーもなんだか…夕凪のお姉ちゃまのマホウじゃないの?」
「あっ、違うよマリーちゃん!夕凪のマホウだよ!」
「夕凪姉…嘘はいけません」
「はは…」
「分かった?」
「まあ、ね」
氷柱は呆れたように、兄は苦笑して夕凪の様子を眺めています。
「原理云々よりも、夕凪にとっては不思議そのものが大事って訳で、好奇心がいっぱいだな」
「大事ってよりはなんでもマホウだと思ってるのよ、海晴姉さまの天気予報は海晴姉さまの魔法だって思ってるんだから」
「いいんじゃないか?気象とか物質の三態とか夕凪にはまだ早そうだし……」
そこで、氷柱の方を見た兄はふと気が付きます。
「……あ、おい氷柱、そのアイス」
「ん?なによ下僕、これ私のなんだから一口もあげないわよ」
アイスを指さされて隠すように持ち替える氷柱。
氷柱が食べているアイスは、いちご色をしてて――
「いやそうじゃなくて、それ――」
「ああーっ!!」
「え!?なに?」
「あれ…アイス……」
「これがどうしたの?」
「アイス……氷柱お姉ちゃんが夕凪のアイス食べたー!!」
「ごめんって言ってるでしょ!」
「別にしておけば分かるかなって思って……ごめんなさい夕凪ちゃん、春風も悪いんです」
ぷりぷりと怒る夕凪に春風が申し訳なさそうに、氷柱はちょっと逆ギレ気味で謝っていました。
「うー…でもゴメンですんだらケイサツはいらないよ!」
「夕凪がそれ言うの?」
「ああもう分かったわよ!買ってきてあげるわよ」
「ほんと?やったあ♪じゃあもいっこドライアイスを……」
「調子にのるな!」
ゴチン、と鈍い音が夕凪の頭から響きます。
「…お姉ちゃんがぶったぁ……!」
「一個だけなんだから無くていいのよ。下僕、付き合いなさい」
「え、俺また暑い外に出るの嫌――」
「な・ん・か・言った?」
「はぁ、わかったよ……」
「お兄ちゃんも行くの?じゃあ今度は夕凪もついてく!」
「は?それじゃ私が行く必要が無いじゃない」
夕凪のノリだけの発言に氷柱が突っ込もうとした所で、
「あの、ユキも一緒に行きたいです」
「それならマリーも行きたい!」
「わらわも!」
「さくらも…」
夕凪に続いて、みんな我慢してたみたいに次々と手が上がります。
「俺ひとりじゃみんな見るのは無理だから、ね?」
兄の懇願に氷柱は仕方が無いと言った風に、ひとつ重いため息を付くと――
「買うのは夕凪の一個だけ、それでもみんな暑い外に行きたいの?」
そう最後の確認をしました。
みんなそれでも良いといったにっこりした顔を氷柱に見せます。
「じゃあみんなで行くわよ、さっさと準備してきなさい。帽子を忘れないように!」
「「「はーい!」」」
「遅いと置いていくからね!」
氷柱に急かされて、各々少しだけ急ぎながら自分の部屋に戻っていきます。
みんなが戻ってくるのはこの直ぐ後――
余分に一個アイスを買いに行くのが、結局みんなで散歩になってしまいました。
「氷柱もなんだかんだで面倒見が良いよね」
「うるさい」
げしり、と痛い音が兄の足から聞こえました。
(終)
もくもくっと、みなさんも子供の頃にきっと経験があるはずです。
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「んふふー♪」
ある暑い夏の日の部屋の中
あっちに行ってはそわそわと
こっちに行ってはクフフと笑い
落ち着きなさげな夕凪の姿がそこにありました。
同じ部屋にいる星花は夕凪のそんな動きが気になってしまいます。
「ちゃんと宿題してないと怒られちゃうよ?どうしたの夕凪ちゃん、なんだかすごく楽しそう」
「えへへ、実はね――」
くるり!と夕凪は星花の方向を振り向いて、
実は言いたくうずうずしてたみたいに、何かを喋ろうとしたその時
「ただいまー」
「――あっ、帰ってきた!お兄ちゃーん!」
ぱっ、と星花と話そうとしてた事さえもすっかり忘れて、夕凪は部屋から飛び出していってしまいました。
星花はあっけに取られてしまいます。
「……行っちゃった…もう、なんだろう夕凪ちゃん?お兄ちゃんを待ってたのかな?」
なんだかよく分かりませんが、星花も兄をお出迎えするためにドアをちゃんと閉めてから夕凪の後を追いかけることにします。
一方玄関ではタオルを持った蛍が兄を迎えに出てきていました。
「ただいまー、ふぅ、あっつい……」
「お帰りなさいお兄ちゃん、お疲れ様です――タオル使いますか?」
「うん、ありがとう。ちょっと急いで帰ってきたら汗がもう大変なことに――」
そこへ、やけに騒がしい足音が二階から下りてきます。
「お兄ちゃんお兄ちゃん!貰ってきてくれた?」
一直線に玄関に向かうその足音の主は、もちろん夕凪でした。
玄関に現れた夕凪は蛍の隣をするりと駆け抜けると、玄関に上がったばかりの兄にぶつかるようにくっつきます。
「こら夕凪ちゃん、ちゃんとおかえりなさいしなきゃダメでしょう?」
「おかえりなさい!ねぇ貰ってきてくれた!?」
「もう……」
「あはは、ただいま夕凪。ほら、ちゃんと貰ってきたよ」
「わ!ありがとお兄ちゃんv」
兄は持っていた白い箱を夕凪に手渡します。
その箱は暑い外から帰ってきたのにひんやりとしていて――夕凪はその冷たさにとっても満足します。
軽い足音で星花が追いついてきました。
兄におかえりなさい、と笑顔を向けて、夕凪の側まで歩いて行きます。
「お兄ちゃん、何を買ってきたんですか?」
「今日のデザート、星花も見てみなよ」
そう言って星花に見えるように開けられた箱の中身。
そこには色とりどりの、いろんな種類の美味しそうなアイスが入っていました。
「わあ、美味しそうです!――夕凪ちゃんが待ってたのってアイスだったんだ?」
割と自分のことは棚にあげて、星花は食いしん坊な夕凪のことをクスクスと笑います。
「ううん、違うよ?」
「えっ、違うの?」
「今日のユウナの目的はアイスじゃなくてこっち!」
ばばん!と夕凪は箱の中を大げさな動きで指差します。
なんだろう?と星花がそこを覗き込むと――
指の先のアイス――の間には白い煙をもわもわと出している、真っ白なかたまりがありました。
「……ドライアイス?」
「うん!ドライアイス!お兄ちゃんに貰ってきてねってお願いしてたの」
わくわくとした、楽しそうな夕凪の元気な声が玄関に響き渡ります。
「夕凪の夏休みの計画だい2だん!白い煙でマホウ使いっぽくなっちゃう実験!」
「アイス選ぶのは早い者勝ちだよー」
「夕凪はいーちご!」
「うーん、どれにしようかな…?」
「私はバニラにします」
「わらわもバニラにしようかの」
「まっちゃじゃないの?」
「……わらわがいつもそういうのを食べると思ったら大間違いじゃぞ?」
「まあいいけど、私はレモンにするわ?」
アイスがあるよと一声かけると、アイスの箱の周りに小さい子達が集まって、きゃいきゃいとアイスを選び始めます。
机に届かない子達は精いっぱい背伸びをして、箱の中を覗き込もうと頑張っていました。
兄は後ろから抱えてあげて、中を見るお手伝いをしてあげます。
「それじゃ、いただきまーす!」
「……アイスもいいけど、食べてるうちにドライアイス溶けて無くなっちゃうよ?」
スプーンを握りしめて今にもアイスの蓋を開けようとしていた夕凪の動きがピタリと止まります。
「うっ、じゃあそっちを先に……」
アイスは冷凍庫に保存しておくことが出来るけれども、ドライアイスはそうも行きません。
兄に注意されて、夕凪は名残惜しそうにスプーンを置こうとします。
「ふむ、そうしたら今度はアイスが無くなってしまうかもな?食いしん坊な誰かさんが勝手に食べて――」
「う、ううぅ……」
そこに今度は霙が、チョコレート味のアイスを取りながらさらりとそう言いました。
夕凪はアイスを抱えたまま、どうしたらいいか分からず凍ってしまったようにぴたりと動きが止まってしまいます。
「お姉ちゃぁん……」
「はいはい、霙ちゃんもいじめないの。ちゃんとアイスは冷蔵庫の中に取っておいてあげますからね?」
春風が夕凪の頭を撫でてあげて固まりを溶かしてあげると、アイスを受け取って冷蔵庫の中に持って行きます。
「――はい!これで大丈夫です♡」
「ありがとうお姉ちゃん――じゃあ夕凪準備するね!」
「あ、ドライアイス弄るのは危ないからここでやってね?」
「はーい!」
ドライアイスを扱うのはちょっとだけ危ないので、一応兄が実験の監督役です。
夕凪はキッチンに走ると、ガラスのコップに水を入れて戻って来ます。
「ドライアイスは手で触らないこと、わかった?」
「うん!まかせて!」
ドライアイスの固まりをスプーンですくいながら夕凪は答えます。
「ほら、ちゃんと手元見て――あと出てきた煙は直に吸わないようにね?」
「さっきから夕凪おねえちゃまは何をしているの?」
夕凪と兄がやいやい騒いでいると、なんだろうとアイスを食べながらマリーが近寄ってきました。
ギャラリーが増えて、夕凪の目がきゅぴんと輝きます。
「ふふーちょっと待ってて!面白いもの見せてあげる!」
夕凪は集まってない他のみんなにも呼びかけて、自分の周りに集めます。
「みんな見てて、いくよー!」
みんな注目してることを確認すると、慎重にドライアイスをスプーンですくって――
そっとドライアイスをコップの中に落としました。
ぽちゃん、とその瞬間、水の中のドライアイスはコポコポとたくさんの泡を作り出し
その泡が水面まで浮かび上がって、コップの上からたくさんの白い煙を吐き出します。
それはまるで、魔法使いがクスリを作っている釜のように――
「やったあ成功!すごいすごい!」
「わぁ…!」
「もくもく!」
「おお、すごいのじゃ!面妖な――」
小さい子達はアイスを口に運ぶのも忘れて、その光景に目を輝かせ始めます。
溢れ出た煙はふわりとテーブルの上に広がって、マリー達の手元まで流れてきます。
「きゃ、なにこれ冷たい!」
「ほんと、つめたい…」
「ひえひえ!」
押し寄せる煙に小さい子達は少しだけ怖がって、触れたときのその冷たさに驚きながら、
安全なことが分かると楽しそうに小さな手のひらを煙の中に泳がせていました。
「ねえ下僕、あれ、なにやってるの?」
そんな夕凪達の様子を見ていた兄の隣に、氷柱がやってきます。
「ドライアイスの実験だよ、水の中に入れるやつ」
「ふぅん――このアイス用の?今じゃ保冷剤の方が普通よね」
「うん、入れてもらったんだ、夕凪にねだられて――まあ今日は暑かったから保冷剤じゃ間に合わなかったと思うよ」
氷柱はソファーに座ると、アイスを食べ始めます。
「ん、おいし。それにしてもドライアイス――懐かしいわね」
「氷柱も昔は同じことやったのか?」
「一度ね、でも夕凪とは違うわよ」
「?、というと?」
「……たぶん見てれば分かるわ」
「ねぇ夕凪お姉ちゃま、これはどうして白い煙が出ているの?」
白い煙に手をかざしていたマリーがそんな事を夕凪に聞いてきます。
夕凪はえへんと胸をそらすと、自信いっぱいに答えました。
「実は今、夕凪はマホウのクスリを作っているのだ!今入れたマホウのアイスでこの水から白い煙を出して――」
「違います夕凪姉、あれはドライアイスです。ドライアイスは二酸化炭素の固体で、二酸化炭素は常温で気体であるため、固体から気体へと昇華が起こり――夕凪姉?」
「???」
「夕凪姉聞いてますか?」
「う、うん……でもよく分かんない…」
「マリーもなんだか…夕凪のお姉ちゃまのマホウじゃないの?」
「あっ、違うよマリーちゃん!夕凪のマホウだよ!」
「夕凪姉…嘘はいけません」
「はは…」
「分かった?」
「まあ、ね」
氷柱は呆れたように、兄は苦笑して夕凪の様子を眺めています。
「原理云々よりも、夕凪にとっては不思議そのものが大事って訳で、好奇心がいっぱいだな」
「大事ってよりはなんでもマホウだと思ってるのよ、海晴姉さまの天気予報は海晴姉さまの魔法だって思ってるんだから」
「いいんじゃないか?気象とか物質の三態とか夕凪にはまだ早そうだし……」
そこで、氷柱の方を見た兄はふと気が付きます。
「……あ、おい氷柱、そのアイス」
「ん?なによ下僕、これ私のなんだから一口もあげないわよ」
アイスを指さされて隠すように持ち替える氷柱。
氷柱が食べているアイスは、いちご色をしてて――
「いやそうじゃなくて、それ――」
「ああーっ!!」
「え!?なに?」
「あれ…アイス……」
「これがどうしたの?」
「アイス……氷柱お姉ちゃんが夕凪のアイス食べたー!!」
「ごめんって言ってるでしょ!」
「別にしておけば分かるかなって思って……ごめんなさい夕凪ちゃん、春風も悪いんです」
ぷりぷりと怒る夕凪に春風が申し訳なさそうに、氷柱はちょっと逆ギレ気味で謝っていました。
「うー…でもゴメンですんだらケイサツはいらないよ!」
「夕凪がそれ言うの?」
「ああもう分かったわよ!買ってきてあげるわよ」
「ほんと?やったあ♪じゃあもいっこドライアイスを……」
「調子にのるな!」
ゴチン、と鈍い音が夕凪の頭から響きます。
「…お姉ちゃんがぶったぁ……!」
「一個だけなんだから無くていいのよ。下僕、付き合いなさい」
「え、俺また暑い外に出るの嫌――」
「な・ん・か・言った?」
「はぁ、わかったよ……」
「お兄ちゃんも行くの?じゃあ今度は夕凪もついてく!」
「は?それじゃ私が行く必要が無いじゃない」
夕凪のノリだけの発言に氷柱が突っ込もうとした所で、
「あの、ユキも一緒に行きたいです」
「それならマリーも行きたい!」
「わらわも!」
「さくらも…」
夕凪に続いて、みんな我慢してたみたいに次々と手が上がります。
「俺ひとりじゃみんな見るのは無理だから、ね?」
兄の懇願に氷柱は仕方が無いと言った風に、ひとつ重いため息を付くと――
「買うのは夕凪の一個だけ、それでもみんな暑い外に行きたいの?」
そう最後の確認をしました。
みんなそれでも良いといったにっこりした顔を氷柱に見せます。
「じゃあみんなで行くわよ、さっさと準備してきなさい。帽子を忘れないように!」
「「「はーい!」」」
「遅いと置いていくからね!」
氷柱に急かされて、各々少しだけ急ぎながら自分の部屋に戻っていきます。
みんなが戻ってくるのはこの直ぐ後――
余分に一個アイスを買いに行くのが、結局みんなで散歩になってしまいました。
「氷柱もなんだかんだで面倒見が良いよね」
「うるさい」
げしり、と痛い音が兄の足から聞こえました。
(終)
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