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つりがね草

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かいだんばなし

かいだんばなしのお話です。

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「……が、………で、それがね…… だったの!」
「キャ~~ッ!」
「ね?ね?怖いでしょ!?」
「うぅ……こんなの反則です……」

「……ああもう!うるさい!」

夕飯の後の、のんびりしたリビングの隅っこ――
そこでこそこそと話していた星花と夕凪の声に、氷柱の大きな怒鳴り声がぶつかります。

「なんでわざわざここでそんな話をするわけ!?自分の部屋に戻ってやりなさいよ!」
「だってここならみんな居るから怖くないし……」
「怖かったら怪談なんてしなればいいでしょ!」
「もう!氷柱お姉ちゃんわかってないなぁ、怖いけど怖い話をするのがいいの!」

氷柱と夕凪の口ゲンカが始まります。
いつもの光景でした。

「星花姉じゃ、わらわも自分の部屋に戻りたいのじゃが……」
「もうちょっとだけ!もうちょっとだけ一緒にいて?」

観月はさっき星花に捕まって――星花の膝の上に観月が収まっていました。
星花は観月をきゅっと抱きしめて離そうとしません。
怖い話を一緒に聞いていて欲しいみたいで、観月も無理に振りほどけません。

「むぅ、としてもなんでわらわは捕まっておるのじゃ?」
「だって観月ちゃんなら何かあったときに何とかしてくれそうですし……」
「うんうん!」

そこに夕凪が同調します。
頼られてちょっと嬉しい観月です。

「こら、話を聞きなさいよ!」
「じゃあ氷柱お姉ちゃんが部屋に戻ればいいでしょー!」
「私は見たいTVがあるの!」
「……やれやれなのじゃ…」

氷柱と夕凪の口ゲンカはいつまでたっても止まりません。

「まあ、これだけ賑やかなら何か――来るものも来ないじゃろ。のう、キュウビ?」
「ココン!」
「うん?観月ちゃん今なにか言った?」
「何でもないのじゃ?」

星花の膝の上に座る観月――のさらにその膝の上にいるキュウビが返事をします。
星花にキュウビは見えないので不思議そうにしていましたが、観月は知らんぷりです。

「はあ……まったく、怪談話なんてそんな根も葉も無い話を信じて……」
「む?姉じゃそれは間違っておるぞ?」
「え?」

口ゲンカ中の二人に観月が口を挟みます。
あっけに取られた氷柱を見上げながら、星花の腕の中で観月は言います。

「怖い話と言うものには――それが真実か嘘かはさて置いての?
大抵出来る理由というものがあるものなのじゃ」
「出来る理由…?」
「そうじゃ、
『あの川には水の中に引き込む幽霊が居るから遊んじゃ駄目』
『あんまり遅くまで遊んでると幽霊がどこかに連れ去ってしまう』
例えばこんな怪談を聞いたことはないかの?」
「うん、あるある!」
「こんな怪談話は、親達がわらわ達を危ないところに近付けさせないために作ったお話じゃ」
「どういうこと?」
「姉じゃらも、怖いものがあるとわかっている所にわざわざ近づいたりしないじゃろ?
そういう風に危ないところに近付けさせないための作り話。
『おそれ』の力と言う訳じゃ」
「そうだったんですか……」
「本当にそういう事があったから怪談話が出来たのか、
そういう事を起こさないために作られた怪談話なのか――
どっちかはわらわ達には分からぬ。
じゃが嘘だと決めつけて軽率にあつけうべきものではないのじゃぞ?
触らぬ神に祟りなし、じゃ」
「……まぁ、そうね」
「うむ!子供だましと言う意味では合っておるがの?
――じゃが、何をしていなくても向こうから何かをしてくる者も居るのも事実じゃ」
「どんなのどんなの?」
「む?そうじゃな、これはおばあから聞いた話なのじゃが――」

観月の話にみんな惹き込まれていきます。
星花も、さっきまでケンカをしていた夕凪も、聞きたくなかったはずの氷柱までも――

――
――――

「「お兄ちゃぁん!」」
「うわっ!っと……星花に夕凪、急にどうしたの?」
「観月ちゃんが、観月ちゃんがぁ……」
「え!?観月がどうかしたの!」
「いや――怪談話をしていたのじゃが、わらわがちとやりすぎたようじゃ」
「ふたりをここまでって……観月、なんの話をしたの?」
「兄じゃも聞きたいかの?じゃが、フフ――兄じゃが一人で寝られなくなっては大変じゃからのう?」

ふたりに抱きつかれた兄を見ながら、くすくすと観月は笑います。
その意味深な笑みに兄はゾクリと、そしてドキリとしてしまいます。

「もし一人寝が寂しかったら、わらわが一夜を共に――そうじゃ!兄じゃぜひわらわの話を聞くのじゃ!」
「あ、えっと……ちょっと待って観月?ふたりともこの状態だし――」
「さあ!さあなのじゃ!」

観月って怪談話の才能がある……?
二人の様子を見ていると、興味があるけど聞くのも怖いのでした。

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