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つりがね草

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栗と芋

みぞ姉SS
色々考えてみたけどこういうのになる自分がくやしい。
=====

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ぱき


ぱき


ぱき


規則正しい音が聞こえる

「……ん?なんだこっちをそんな熱心に見て」
「ん、いや、なんとなく」
「見て楽しいものでもないだろう」

ぱき

「見てるだけじゃつまらないだろう、手伝ってもいいんだぞ?」
「……喜んで」
「ほら、ここに座るといい」
「ありがと、栗を割る道具俺にも貸して」
「これしか無いようだな」

ぱき

「爪?」
「爪」
「了解」

ぱき


ぱき

ぱき
ぱき

整列していた音が不規則になる。
四拍子と五拍子が一緒に演奏したように。

「みぞ姉早いね」
「ん?」
「栗剥くのが」
「……ああ」

ぱき

みぞ姉はこちらも向かずに黙々と作業していた。
栗を取って、栗を剥いて、実をテーブルの上のカゴへ、殻をゴミ置きへ。
流石にこの作業を一任されるだけあって、その動作は流れるように無駄がない。

ぱき

「まあ栗剥きと言ったら私だからな、経験が違う」
「コツとかは?」

ぱき

ぱき

「……爪のやり方は知らん」
「さいですか……」

ぱき
ぱき

ぱき

……
…………

ぱきっ

「ふう、終わった……手と爪が痛い」
「私のやった量の半分も行ってないだろう?」
「みぞ姉は疲れないの?」
「やり方を知ってるからな――疲れることは疲れるが」
「やっぱり、よく毎回一人で出来るなぁ」


「霙お姉ちゃんご苦労様です――あっ、お兄ちゃんも手伝ってたんですか?」
「うん、少しだけね」
「少し待っててください、今お茶を入れますから」

「あんな簡単な事でこうやってお茶と甘味にありつけるから栗剥きはいいものだな」
「……安いなぁ…」
「なんか言ったか?」
「いえ何も」

しばらくしてキッチンから紅茶らしきいい香りが漂ってくる。
蛍が紅茶と茶菓子を持ってきてくれた。
――その顔に困ったような表情を貼りつけて。

「ごめんなさいお茶菓子がひとり分しか無くて……半分こしてくれますか?」
「……」
「……」

蛍が持ってきた盆の上には、芳しい香りをたてる紅茶が入ったカップが二つ。
スイートポテトのパイが二切れ――それはもともと一切れだったものを二つに切ったような鋭角さだった。
どうやらこれしか無かったらしい。
ふと横を向くと、みぞ姉はしまったというような顔をしていた。

「いやみぞ姉から手伝えって言って……」
「…………」

「……」
「……」
「俺は、遠慮して、おきます……」
「よく出来た弟よ、悪いな」
「絶対思ってない……」

ギブアップした途端にみぞ姉はパイが乗った盆を自分の方に引き寄せた。
この姉は。

「はぁ仕方ない栗食べるか……」

自分で剥いた栗の実に手を伸ばして齧ると、口の中に秋の甘さと仄かな渋みを感じた。
紅茶と実によく合う気がした。
これはこれで悪くない。

「――うむ、働いた後の甘いモノは旨いな」

みぞ姉は隣でご満悦の表情を浮かべる。
まったく。

しかしまあ、仕事量的には丁度いいのかもしれないし――
この光景が見れたので良しとしよう。

ふう、とついたため息が紅茶から立つ湯気を散らした。

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