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つりがね草

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トゥルークリーチャーズの撃退隊

リクエスト物
時間を限って書いたので書きっぱなしで本当にごめんなさい。
後で直します。
==========

『フレディさん!フレディさん!!』
「ん・・・・・・キュウビ?」
家の片隅、庭の端っこ、眼の届かないところ――
そこでスヤスヤと気持ちよく寝ていたフレディは、
なにやら急いでやってきた様子のキュウビに起こされました。

「どうしたのこんな夜中に・・・・・・」
眠い目を鼻で器用にこすりながら、フレディはゆっくりと立ち上がり伸びをします。
辺りはまっくら、家の電気は一つも点いていない様子――
頭の上には星が輝いていて、辺りも静か。
まごう事無き夜です。

『どうしたの?じゃないです!大変なんです!』
「だから何が・・・・・・」
『ドロボウです!』
「・・・・・・ドロボウ!?」



暗闇にひそめられる二人組の男の声。
ひとりはのっぽ、ひとりはチビ。
「こんな大きな家にはどんなお宝が眠ってるんだろうなぁ、なぁアニキ?」
「無駄口喋ってねぇで周りよく見ろ!」
ノッポがのんきなことを言って、チビの方に怒られます。
「だってよう、久々の上客だぜ?」
「ヘヘ・・・・・・まぁな、腕がなるぜ」
二人は通行人のふりをして、こそこそと家の前の道を何度も行ったり来たりしています。
「誰も来ないな、よし、行くか・・・!」
「ヒュゥ!」
「慎重に行けよ?」



「番号!1!」
「にー!」
『さん!』
「4」「5」「6!」
「「「総員6名です!!!」」」
フレディにキュウビ、家の中から呼び出されたオコジョにカエル。
天使家にお世話になっているアニマルたちが勢ぞろいしていました。

「現状報告!」
『怪しい動きをする二人組の気配を感じたので皆さんを緊急招集しました。
現在は門を突破して庭をぐるりと探るように移動中です!』
「まだ家の中には侵入してないの?」
『はい、でも時間の問題かと・・・・・・』
「みんな一緒にドロボウを撃退する方法を考えよう!」
フレディが進行役となって首脳会議を進めます。


けれども、なかなか良い案が出てきません。
キュウビ以外は下手に近づいたら命が危ないかもしれないのです。
だからといって、キュウビだけでも――悪人じゃなく、悪霊ならまだしも――追い返す上手い手段を持っていません。
無駄に時間が進むばかり、時間はあまり、ありません。
「うーん・・・・・・」
みんな眠い頭をフル回転させているのです。
良い案が浮かばないのも仕方ないかもしれません。
でも、早くしないとみんな優しい、大好きな家族を危険な目にあわせてしまいます。

「みんなで何か力を合わせれば・・・・・・」

誰かが呟いたその言葉。
それを引き金に、ピコン!と、三つのひらめき豆電球がオコジョ達の頭の上に現れます。
「そうだ」「そうだそうだ!」「あれは良いかも!」
『なにかいい案が浮かんだ?』
「今日」「ユキちゃんが」「こんな話を読んでたんだけど……」

……
――……
――――……

『なるほど、それはいいアイディア!』
「僕らでもおんなじ様にやれば……」
「「ドロボウをやっつけられる!」」
にわかにみんなが活気付きます。
「じゃあみんな、これで行くよ?」
みんなは力強く頷くと、一斉に駆け出します。



「当然鍵は・・・・・・かかってるな。鍵は大事だよなぁ?」
「こんな大きな家だ、しっかりセキュリティー入れてるだろうよ」
「でもそれをくぐり抜けるのが?」
「「俺たちプロだ!」」
「クヒヒッ」
決め台詞のようなものを言って、二人は小さく笑い合います。
「さぁて仕事に取り掛かるかな――」
ノッポは持っていたカバンを漁り始めます。
「・・・・・・あれ?どこにやったかな?」
「はやくしろよ!」
「慌てんなって、こういうのはじっくりやったほうが、ほら――」



「みんな準備はいい?」
フレディが最後の確認をします。
ドロボウ達が侵入しようとしている場所のすぐ近く、家の影。
そこにみんなは勢ぞろいしていました。
「邪魔者な」「あいつらを」「さっさと」
「「「追い払うんだ!」」」
オコジョはフレディの頭に乗っかって、横に三匹並んで、
「オッケー、やろう!」
カエルはそのオコジョ列の前方に、フレディの頭に一緒に乗っています。
『チャンスは今です!』
キュウビはみんなのすぐ上、空中にふわふわっと浮いていました。

みんなが一箇所に集まるフォーメーション。
オコジョ達が聞いた、綿雪が読んでいた本に書かれていた方法――
そう、これからみんなでドロボウ達を脅かしてやるのです!

カエルは大きく頬をふくらませて、体全体が揺れるほどに喉を鳴らします。
「ゲロロ!ゲロロ!」

キュウビは喉の奥から声を出し、相手を畏怖させる遠吠えを披露します。
『ココーン!ケーン!』

オコジョ達はトリオで鳴き声を上げ、調和増幅させます。
「キィ!」「キィ!」「キィィ!!」

フレディは大きく大きく息を吸い込むと、息の限り、思いっきり声を張り上げました。



「ぱおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!」




その瞬間、二人は驚いて一メートルは飛び上がったかもしれません。
「な、なんだなんだ!」
「急に何だってんだ!?」
「はっ!ちっ、ヤバイぞぼさっとしてねぇでズラかれ!」
「え?なんでだよせっかくここまで――」
「馬鹿!セキュリティに引っかかったんだよ!喋ってねぇで足動かせ!」
「なんだよ、俺何もしてねぇよ!?」
逃げ足だけは一級品。
二人はあっという間に家の敷地から飛び出して、暗闇の中に逃げていきました。

それからほんの少しして、家のいろんな部屋の電気が点き始めます。
フレディの大きすぎる鳴き声でみんな起きてきてしまったのです。

「なに?今の声――」
「象の声のような・・・・・・」
「何!?そんなの認めないわよ!」
年の大きいお姉ちゃん達がリビングに集まり始めます。
「んぅ・・・・・・」
そんな中、カーテンが開いて虹子が姿を表しました。
パジャマ姿の虹子は眠そうな顔をしてあたりを見回し――こちらに視線を合わせます。
「あっ、虹子ちゃん!聞いて、さっき――」
「・・・・・・フレディ夜は静かにしなきゃだめ!」
「――はい・・・」
「おやすみなさい・・・・・・」
虹子はカーテンの向こう側へ帰っていってしまいました。

褒めてもらえると思ったフレディはがっくり肩を落とします。
「うう、頑張ったのに・・・・・・」
「まあまあ」
『仕方が無いですよ』
「まあ、いいんですけどね・・・・・・」

「じゃあみんなお疲れ様でした」
「「「おやすみなさーい!」」」
『おやすみなさいです』
一仕事終えてみんなが元居た場所へと散らばっていきます。

その一部始終を見ていた影がひとつ――
「ふむ・・・・・・いい実験台がやってきてくれたと思ったんだがな?感謝するといい――」
霙が開けっ放しになっている門戸を眺めながらそんな事をつぶやきます。
「私たちの家族に助けられたんだからな――さて、寝直すとしよう――」


――こうして天使家の平和は、日々守られています。

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織姫

「近頃暑い日が続いておるの」

わらわの目の前にキュウビを座らせて、ひとまずそんな事を話す。
突然呼び出しての時候のあいさつに、キュウビは「なんだろう?」と不思議な顔をしているのじゃが
フフ――
これを見て、どんな表情をするのかのう?

「そんな中頑張っているキュウビに――ご褒美じゃ!」

体の後ろに隠していた物をキュウビの前にぱっと広げて見せてみせる。
それを見たキュウビの目が、まんまるに見開かれて――

「わらわお手製の赤い前掛けじゃ!」

細く紐のように切られた赤い布、その丁度真ん中に付いている前掛け部分の赤い四角い布。
針も糸も使ってない、もとい使えなかったのじゃが……キュウビの前に広げられた一枚布の前掛け。
よくお地蔵様やお稲荷様にも着けられている、あれじゃ。

「どうじゃ?」
さっきまでぽかんとしておったキュウビは、今はもう体を乗り出して
鼻をいそがしそうに鳴らしながら、わらわが出した物が何であるかを確認しておった。
「コン!ココン!」
「フフ、気に入ってくれたようじゃの?」
「キューン♡」

キュウビの耳と尻尾がぴん伸ばして返事をする。
その喜びように、自然とこちらまで笑顔になる。
「うむ、良かったのじゃ♡」
うれしい気持ちと、ほっとした気持ちがわらわの心の中にじんわりと満ちてくる。

キュウビにご褒美と言っても、わらわがキュウビに贈れる物は限られておる。
例えば犬であったらおやつであったり、新しいおもちゃや首輪なのじゃが……
キュウビには何か特別なものをあげたくなっての。

「コォン、コォン!」
「これこれ、そう焦るでない」

前掛けを広げたままだったわらわの腕に、キュウビが両手を乗っけて催促してくる。
キュウビは早く付けてみたくて仕方が無いようじゃ。

「んしょ……」

キュウビに抱きつくようにして、首の後ろ側で紐を結ぼうとしてみる。
モフモフとしたキュウビの毛並みが柔らかくてくすぐったい。
蝶々結びはまだあまり慣れていないのじゃが――

「キュー、キュウン♪」
「む、動くでない」

「ンキュゥ」
「む、ちょっときつかったかの」

「これでどうじゃ?ほれ」
「ココン!キュゥゥン♪」
キュウビは飛び上がると、くるんくるんと宙返り。
体いっぱいに喜びをあらわして、ひらりと前掛けがなびいて――
うむうむ、よく似合ってるの。
「キュゥッ♡」
「これ、急に飛びつくでない!」
「キュキュー、キュウンキュウン」
「喜んでもらえたようでわらわも嬉しいのじゃ。しかし……んむ、顔を舐めるのはやめるのじゃ」
「キュゥン、ココンココン♪キューキュキュウン!」
抱きしめてやろうと思ったキュウビは、嬉しさのあまりに声が聞こえていない様子。
「分かったわぷ、これ!分かったから止めるのじゃ!」
「ココン♡」
「わざとじゃ!?」

(終わり)

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もくもくウィッチ!

夕凪SSです。
もくもくっと、みなさんも子供の頃にきっと経験があるはずです。

=====
「んふふー♪」

ある暑い夏の日の部屋の中
あっちに行ってはそわそわと
こっちに行ってはクフフと笑い
落ち着きなさげな夕凪の姿がそこにありました。

同じ部屋にいる星花は夕凪のそんな動きが気になってしまいます。
「ちゃんと宿題してないと怒られちゃうよ?どうしたの夕凪ちゃん、なんだかすごく楽しそう」
「えへへ、実はね――」
くるり!と夕凪は星花の方向を振り向いて、
実は言いたくうずうずしてたみたいに、何かを喋ろうとしたその時

「ただいまー」

「――あっ、帰ってきた!お兄ちゃーん!」
ぱっ、と星花と話そうとしてた事さえもすっかり忘れて、夕凪は部屋から飛び出していってしまいました。
星花はあっけに取られてしまいます。
「……行っちゃった…もう、なんだろう夕凪ちゃん?お兄ちゃんを待ってたのかな?」
なんだかよく分かりませんが、星花も兄をお出迎えするためにドアをちゃんと閉めてから夕凪の後を追いかけることにします。


一方玄関ではタオルを持った蛍が兄を迎えに出てきていました。
「ただいまー、ふぅ、あっつい……」
「お帰りなさいお兄ちゃん、お疲れ様です――タオル使いますか?」
「うん、ありがとう。ちょっと急いで帰ってきたら汗がもう大変なことに――」

そこへ、やけに騒がしい足音が二階から下りてきます。
「お兄ちゃんお兄ちゃん!貰ってきてくれた?」
一直線に玄関に向かうその足音の主は、もちろん夕凪でした。
玄関に現れた夕凪は蛍の隣をするりと駆け抜けると、玄関に上がったばかりの兄にぶつかるようにくっつきます。

「こら夕凪ちゃん、ちゃんとおかえりなさいしなきゃダメでしょう?」
「おかえりなさい!ねぇ貰ってきてくれた!?」
「もう……」
「あはは、ただいま夕凪。ほら、ちゃんと貰ってきたよ」
「わ!ありがとお兄ちゃんv」
兄は持っていた白い箱を夕凪に手渡します。
その箱は暑い外から帰ってきたのにひんやりとしていて――夕凪はその冷たさにとっても満足します。

軽い足音で星花が追いついてきました。
兄におかえりなさい、と笑顔を向けて、夕凪の側まで歩いて行きます。
「お兄ちゃん、何を買ってきたんですか?」
「今日のデザート、星花も見てみなよ」
そう言って星花に見えるように開けられた箱の中身。
そこには色とりどりの、いろんな種類の美味しそうなアイスが入っていました。
「わあ、美味しそうです!――夕凪ちゃんが待ってたのってアイスだったんだ?」
割と自分のことは棚にあげて、星花は食いしん坊な夕凪のことをクスクスと笑います。

「ううん、違うよ?」
「えっ、違うの?」
「今日のユウナの目的はアイスじゃなくてこっち!」
ばばん!と夕凪は箱の中を大げさな動きで指差します。
なんだろう?と星花がそこを覗き込むと――
指の先のアイス――の間には白い煙をもわもわと出している、真っ白なかたまりがありました。
「……ドライアイス?」
「うん!ドライアイス!お兄ちゃんに貰ってきてねってお願いしてたの」
わくわくとした、楽しそうな夕凪の元気な声が玄関に響き渡ります。

「夕凪の夏休みの計画だい2だん!白い煙でマホウ使いっぽくなっちゃう実験!」



「アイス選ぶのは早い者勝ちだよー」
「夕凪はいーちご!」
「うーん、どれにしようかな…?」
「私はバニラにします」
「わらわもバニラにしようかの」
「まっちゃじゃないの?」
「……わらわがいつもそういうのを食べると思ったら大間違いじゃぞ?」
「まあいいけど、私はレモンにするわ?」
アイスがあるよと一声かけると、アイスの箱の周りに小さい子達が集まって、きゃいきゃいとアイスを選び始めます。
机に届かない子達は精いっぱい背伸びをして、箱の中を覗き込もうと頑張っていました。
兄は後ろから抱えてあげて、中を見るお手伝いをしてあげます。

「それじゃ、いただきまーす!」
「……アイスもいいけど、食べてるうちにドライアイス溶けて無くなっちゃうよ?」
スプーンを握りしめて今にもアイスの蓋を開けようとしていた夕凪の動きがピタリと止まります。
「うっ、じゃあそっちを先に……」
アイスは冷凍庫に保存しておくことが出来るけれども、ドライアイスはそうも行きません。
兄に注意されて、夕凪は名残惜しそうにスプーンを置こうとします。
「ふむ、そうしたら今度はアイスが無くなってしまうかもな?食いしん坊な誰かさんが勝手に食べて――」
「う、ううぅ……」
そこに今度は霙が、チョコレート味のアイスを取りながらさらりとそう言いました。
夕凪はアイスを抱えたまま、どうしたらいいか分からず凍ってしまったようにぴたりと動きが止まってしまいます。
「お姉ちゃぁん……」
「はいはい、霙ちゃんもいじめないの。ちゃんとアイスは冷蔵庫の中に取っておいてあげますからね?」
春風が夕凪の頭を撫でてあげて固まりを溶かしてあげると、アイスを受け取って冷蔵庫の中に持って行きます。
「――はい!これで大丈夫です♡」
「ありがとうお姉ちゃん――じゃあ夕凪準備するね!」
「あ、ドライアイス弄るのは危ないからここでやってね?」
「はーい!」
ドライアイスを扱うのはちょっとだけ危ないので、一応兄が実験の監督役です。
夕凪はキッチンに走ると、ガラスのコップに水を入れて戻って来ます。

「ドライアイスは手で触らないこと、わかった?」
「うん!まかせて!」
ドライアイスの固まりをスプーンですくいながら夕凪は答えます。
「ほら、ちゃんと手元見て――あと出てきた煙は直に吸わないようにね?」
「さっきから夕凪おねえちゃまは何をしているの?」
夕凪と兄がやいやい騒いでいると、なんだろうとアイスを食べながらマリーが近寄ってきました。
ギャラリーが増えて、夕凪の目がきゅぴんと輝きます。
「ふふーちょっと待ってて!面白いもの見せてあげる!」
夕凪は集まってない他のみんなにも呼びかけて、自分の周りに集めます。
「みんな見てて、いくよー!」
みんな注目してることを確認すると、慎重にドライアイスをスプーンですくって――
そっとドライアイスをコップの中に落としました。

ぽちゃん、とその瞬間、水の中のドライアイスはコポコポとたくさんの泡を作り出し
その泡が水面まで浮かび上がって、コップの上からたくさんの白い煙を吐き出します。
それはまるで、魔法使いがクスリを作っている釜のように――

「やったあ成功!すごいすごい!」
「わぁ…!」
「もくもく!」
「おお、すごいのじゃ!面妖な――」
小さい子達はアイスを口に運ぶのも忘れて、その光景に目を輝かせ始めます。
溢れ出た煙はふわりとテーブルの上に広がって、マリー達の手元まで流れてきます。
「きゃ、なにこれ冷たい!」
「ほんと、つめたい…」
「ひえひえ!」
押し寄せる煙に小さい子達は少しだけ怖がって、触れたときのその冷たさに驚きながら、
安全なことが分かると楽しそうに小さな手のひらを煙の中に泳がせていました。


「ねえ下僕、あれ、なにやってるの?」
そんな夕凪達の様子を見ていた兄の隣に、氷柱がやってきます。
「ドライアイスの実験だよ、水の中に入れるやつ」
「ふぅん――このアイス用の?今じゃ保冷剤の方が普通よね」
「うん、入れてもらったんだ、夕凪にねだられて――まあ今日は暑かったから保冷剤じゃ間に合わなかったと思うよ」
氷柱はソファーに座ると、アイスを食べ始めます。
「ん、おいし。それにしてもドライアイス――懐かしいわね」
「氷柱も昔は同じことやったのか?」
「一度ね、でも夕凪とは違うわよ」
「?、というと?」
「……たぶん見てれば分かるわ」


「ねぇ夕凪お姉ちゃま、これはどうして白い煙が出ているの?」
白い煙に手をかざしていたマリーがそんな事を夕凪に聞いてきます。
夕凪はえへんと胸をそらすと、自信いっぱいに答えました。
「実は今、夕凪はマホウのクスリを作っているのだ!今入れたマホウのアイスでこの水から白い煙を出して――」
「違います夕凪姉、あれはドライアイスです。ドライアイスは二酸化炭素の固体で、二酸化炭素は常温で気体であるため、固体から気体へと昇華が起こり――夕凪姉?」
「???」
「夕凪姉聞いてますか?」
「う、うん……でもよく分かんない…」
「マリーもなんだか…夕凪のお姉ちゃまのマホウじゃないの?」
「あっ、違うよマリーちゃん!夕凪のマホウだよ!」
「夕凪姉…嘘はいけません」


「はは…」
「分かった?」
「まあ、ね」
氷柱は呆れたように、兄は苦笑して夕凪の様子を眺めています。
「原理云々よりも、夕凪にとっては不思議そのものが大事って訳で、好奇心がいっぱいだな」
「大事ってよりはなんでもマホウだと思ってるのよ、海晴姉さまの天気予報は海晴姉さまの魔法だって思ってるんだから」
「いいんじゃないか?気象とか物質の三態とか夕凪にはまだ早そうだし……」
そこで、氷柱の方を見た兄はふと気が付きます。
「……あ、おい氷柱、そのアイス」
「ん?なによ下僕、これ私のなんだから一口もあげないわよ」
アイスを指さされて隠すように持ち替える氷柱。
氷柱が食べているアイスは、いちご色をしてて――
「いやそうじゃなくて、それ――」

「ああーっ!!」
「え!?なに?」
「あれ…アイス……」
「これがどうしたの?」
「アイス……氷柱お姉ちゃんが夕凪のアイス食べたー!!」


「ごめんって言ってるでしょ!」
「別にしておけば分かるかなって思って……ごめんなさい夕凪ちゃん、春風も悪いんです」
ぷりぷりと怒る夕凪に春風が申し訳なさそうに、氷柱はちょっと逆ギレ気味で謝っていました。
「うー…でもゴメンですんだらケイサツはいらないよ!」
「夕凪がそれ言うの?」
「ああもう分かったわよ!買ってきてあげるわよ」
「ほんと?やったあ♪じゃあもいっこドライアイスを……」
「調子にのるな!」
ゴチン、と鈍い音が夕凪の頭から響きます。
「…お姉ちゃんがぶったぁ……!」
「一個だけなんだから無くていいのよ。下僕、付き合いなさい」
「え、俺また暑い外に出るの嫌――」
「な・ん・か・言った?」
「はぁ、わかったよ……」
「お兄ちゃんも行くの?じゃあ今度は夕凪もついてく!」
「は?それじゃ私が行く必要が無いじゃない」
夕凪のノリだけの発言に氷柱が突っ込もうとした所で、
「あの、ユキも一緒に行きたいです」
「それならマリーも行きたい!」
「わらわも!」
「さくらも…」
夕凪に続いて、みんな我慢してたみたいに次々と手が上がります。

「俺ひとりじゃみんな見るのは無理だから、ね?」
兄の懇願に氷柱は仕方が無いと言った風に、ひとつ重いため息を付くと――
「買うのは夕凪の一個だけ、それでもみんな暑い外に行きたいの?」
そう最後の確認をしました。
みんなそれでも良いといったにっこりした顔を氷柱に見せます。
「じゃあみんなで行くわよ、さっさと準備してきなさい。帽子を忘れないように!」
「「「はーい!」」」
「遅いと置いていくからね!」
氷柱に急かされて、各々少しだけ急ぎながら自分の部屋に戻っていきます。
みんなが戻ってくるのはこの直ぐ後――
余分に一個アイスを買いに行くのが、結局みんなで散歩になってしまいました。

「氷柱もなんだかんだで面倒見が良いよね」
「うるさい」
げしり、と痛い音が兄の足から聞こえました。

(終)

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お日様の側で


「sunny side」
続き――



お兄ちゃんと久しぶりのお散歩です。
せっかくだからと、春風お姉ちゃんがユキのお散歩用のお洋服を色々と出してくれました。
お兄ちゃんにはちょっとだけ待ってもらって――
春風お姉ちゃんと一緒に選んだのは、爽やかな感じのセーラーカラーのワンピースと
それに――柔らかなピンク色の小さな花柄模様が入ったボレロでした。

そのお洋服に袖を通して、春風お姉ちゃんと一緒に鏡の前に立ちます。
「変じゃないですか?」
「ううん、ユキちゃんにぴったり。髪も結んでおいたほうがいいかしら?」
そう言ってお姉ちゃんはユキの髪を二つに結んでくれます。
「うん!ユキちゃんかわいい!」
「そうですか?ウフフ――春風お姉ちゃんありがとうございます!」
それを聞いて鏡の中のユキの顔は、ちょっとだけ不安そうな顔から、嬉しそうな顔に変わってしまいました。

春風お姉ちゃんにお礼を言って、待ってくれてるお兄ちゃんのところへ急ごうとします。
「それじゃあ行ってきます――」
「あ、待ってユキちゃん、忘れ物!」
忘れ物?
あっ、そうです――
お帽子を忘れちゃいけません!
春風お姉ちゃんに取ってもらった帽子を両手で抱えて、お兄ちゃんの所へと――
「まだ忘れてますよユキちゃん?」
「あれ、まだですか?」
お帽子もちゃんと持ちましたし……?
「もう、日焼け止めです!ちゃんと塗らないと大変なことになっちゃいますよ?」
春風お姉ちゃんはポケットから日焼け止めを取り出すと、そのクリームをユキの半袖の腕に薄く伸ばしていきます。
「気分が良く無くなったら直ぐにお兄ちゃんに言うんですよ?」
「はい、でも――今日はとっても体調が良いんです!」

――

――――

「車には気をつけてくださいね?」
「うん、行ってきます」
「行ってきます!」

久しぶりに出るお外は――なんだかユキの覚えてるお外とは何だか違って見えました。

今までずっと雨だったから――
雨で外に出られなくて、空のお日様の光が久々だからでしょうか?

さっきまで眺めていたお庭よりも、
ユキの目に飛び込んでくる景色全部が――
目が痛くなってしまうほどにまぶしくて、キラキラと輝いて見えました。
帽子をかぶっていても太陽の光は、壁に、道路に反射して――
ユキの目の中に飛び込んできます。

「とっても眩しいですね――」
「…なんだか曇ってた分まとめて太陽が光ってるって感じだよね。うん――今日はほんとにいい天気だ」

お兄ちゃんも眩しそうに――目を細めながらを空を見上げて、溜息をつくようにそう言いました。
ユキもお兄ちゃんの目線を追って、一緒に顔を上げます。

ユキたちの上にある綺麗な青色のお空は、やっぱり、ユキが思っていたよりもずっとずっと広く感じてしまいます。
このまま見続けていると、なんだかそのままユキの体が浮かんで空に吸い込まれてしまいそう――
お空の端っこにぷかりと浮かんでいる真っ白な雲だけが「ここは空だよ」と教えてくれていました。

「はい、ほんとにいい天気です」

お兄ちゃんの言うとおりにお日様があんまりにも眩しいので、つい顔の前に手をかざしてしまいます。
『手のひらを太陽に 透かしてみれば』
ユキの白い手ひらにも真っ赤に血の色が透けて――暖かいものが流れているのが分かります。
お日様の光は首筋を、半袖のユキの肌をチリチリと焼いて――
なんだかそれだけなのに、嬉しくなってしまいます。

「――上ばっかり見て歩くと危ないよ?」
「わっ、ごめんなさい」
慌てて顔を元に戻すと、苦笑交じりのお兄ちゃんの顔がありました。
「ほら、転ぶと危ないから手を繋ごっか?」
「ありがとうございます」
お兄ちゃんの大きな手――ユキの手をしっかりと優しく包んでくれます。
ユキはお兄ちゃんのこの手が大好きです。
「――お兄ちゃん」
「なに?」
「今日はありがとうございます!」
「どういたしまして――って、まだ出発したばかりじゃない」
「えへへ――それでもです」
「?……まあいっか、うれしそうだし」

先に家を出ていたヒカルお姉ちゃんやマリーちゃん達に会えるかもしれない、と言うことで、
お散歩の行き先はいつもみんなの遊び場になっている公園になりました。

ですが――
「んー…ヒカル達いないみたいだね」
お兄ちゃんが辺りを見回しながら、そう言います。
「でもユキ公園に来れてよかったです」
「そう?それなら良かった」

公園の中の並木道。
サクラの木がいっぱい並ぶ道をお兄ちゃんと一緒にお話しながら歩きます。
少し前は、綺麗でかわいいピンク色の花をたくさん付けていた枝は――
今は柔らかそうな緑色の葉っぱをお日様に向かって、いっぱいに広げていました。

そんな葉っぱをすり抜けて―ー
ユキたちの歩く道に木漏れ日が出来ていました。
葉っぱの影の中に出来た大きな灯りと小さな灯り。
ひゅうと風が吹いてユキの肌を撫でると、とっても涼しくて、ちょっとだけくすぐったくて、
葉っぱが揺れる度に――
まるで風と葉っぱも楽しくおしゃべりをしてるみたいに、木漏れ日の形が色んな風に変わっていきます。

ざわざわ。
さらさら。

頭の上で葉っぱの声がします。
――木漏れ日の道は、大好きな道です。

「お、シロツメクサがいっぱい咲いてる」
「どこですか?」
「ほら、あの辺り」
お兄ちゃんが指を指した先には公園の広場があって――
そこにシロツメクサの白いお花が広がっていました。
「わぁ、きれいですね――お兄ちゃん、あっちに行きませんか?」
「よし、ちょっと行こっか」
シロツメクサを見つけてちょっとやりたい事が出来ました。
レンガで舗装された道から外れて芝生が広がる広場に入ります。

広場はふわりと夏の草の香りがしました。
「んしょ……」
「?……ユキさっきから何してるの?」
「ちょっと待ってください……出来ました!」
ユキは作った“それ”を後ろに、お兄ちゃんに見えないように持ちます。
「あの――お兄ちゃんちょっとしゃがんでもらえますか?」
「こう?」
ユキのお願いに、お兄ちゃんはすぐに座ってくれました。
不思議そうなお兄ちゃんの顔とユキの顔が同じくらいの高さになります。
そのお兄ちゃんの頭へ――
「はい、プレゼントです!」
「――これは?」
「お花の冠です」
「ああ、なるほど――ありがとユキ」
「どういたしまして――ウフフ、お兄ちゃんとっても似合ってます」
「……そうかな?」
「はい、とってもです♡」
少し落ち着かなさそうでしたが、お兄ちゃんは喜んでくれたみたいでした。
良かったです!

「……そうだ、じゃあユキ、俺にも作り方教えてくれない?」
頭の冠をいじりながら、お兄ちゃんはそう言いました。
「お花の冠のですか?」
「うん、ちょっと作ってみたくなってさ。いい?」
「もちろんです」

――いつもはお兄ちゃんにいろんなことを教えてもらってるユキですが、
今日はユキがお兄ちゃんに教えてあげられる番です!

「えっと――それで、最後はこんな感じです」
「こうして、こう?……よし出来た!の、かな?」
「はい、完成です!」
自信なさそうなお兄ちゃんの表情が――少しだけ可愛くて
でもお兄ちゃんの手の上には、素敵なお花の冠が出来ていました。

「うん…こんな感じかな?じゃあこれは、はいプレゼント」
お兄ちゃんは自分の作ったお花の冠をしげしげと眺めると、それをユキの頭の上――帽子の上に、ぽんと乗せました。
急のことにユキはびっくりしてしまいます。
「ユキに、ですか?」
「うん、形が悪くて恥ずかしいんだけど……これのお礼にね?」
お兄ちゃんは、お兄ちゃんの頭の上のユキが作ったお花の冠を指さして言いました。
「えっと、やっぱりもっと上手く作ったほうが――」
「ううん!ありがとうございます!」
お花の冠をユキに――つくるのに夢中でちっともそんな事は考えていませんでした。
だからすごくびっくりして――どきどきしてしまいました!
「うん、良かった」
「――これはユキの宝物です♡」
「はは、そこまで言われると何だか照れるね」
「でもホントのことですよ?」
「……やっぱりもっとちゃんと作っておけばよかったかな」


「それじゃあ戻ろっか?」
「はい!」
風がひゅうと、お兄ちゃんとユキの周りを通って行きます。
宝物が乗った帽子を飛ばされないように押さえながら――
ユキとお兄ちゃんは一緒に、散歩の続きを戻りました。


――――

――

「……なんだ、それ?」
俺達よりも後に帰ってきたヒカルは、俺の頭のそれをを見るなり指して聞いてきた。
「……見て分かるだろ?」
「ああ、いや、聞き方が悪かった。オマエはなんでそんなの着けてるんだ?」
「なんでって……」

「変……ですか?」
「え?ユキ?」
ヒカルの声にユキがとことことやってくる。
――俺と同じように、頭に花の冠をのっけて。
「…これはユキが作ってくれたものだよ」
「ああ、なるほど――変じゃないよユキ、よく似合ってるじゃないか、なあ――?」
クツクツと笑いをこらえながらヒカルは俺を見ている。
会う姉妹会う姉妹の視線がこうして顔ではなく頭に向かって、その表情が変わるのを良く見れるのは、ちょっとだけ辛いけど――
それよりも、ユキの嬉しそうな表情が見られれば、それだけで十分だった。
ちょっとだけ辛いけど――

「ウフフ――お兄ちゃんとおそろいです♡」

(終わり)

拍手

sunny side


しとしと。
ざあざあ――

なんだか最近は雨ばかりです。

海晴お姉ちゃんに「梅雨」という時期だと教えてもらいました。
今くらいはこんなふうに、お天気は雨ばっかりになってしまうそうです。

だから――
春風お姉ちゃんは食べ物が傷みやすいからって
蛍お姉ちゃんはお洗濯物が溜まってしまって
ヒカルお姉ちゃんは思いきり体を動かせなくて
マリーちゃん達はつまんないの歌

どんよりとした雲からは、雨の粒が幾つも落ちてきて――
みんなの心もじめじめとさせてしまいます。

ユキも――晴れの日の方が好きなので、雨の日は心が落ち込んでしまいます。
ユキはあんまり外に出られませんから――晴れてても雨が降っても、おうちの中にいたりして、あんまり変わらないかもしれません。
ううん――雨の日は、みんながおうちの中にいてくれるので、淋しくないかもしれないです。

だけど――
やっぱり、みんな笑顔でいてくれる方が、ユキは嬉しいので――
みんなが笑顔になる晴れの日の方が、ユキは好きです。

梅雨は雨ばっかり――
ずっとこのまま晴れないのかな……と、心配になってしまいます。


でも、
例えば、さむい冬はぜったいに暖かい春になるみたいに、
ずっとずっと、どんより雲に雨ばっかりのお天気は続きません。



ユキがいつもよりちょっと早く朝目を覚ますと、廊下からパタパタと忙しそうなスリッパの足音が聞こえてきました。
廊下を覗いてみると、それは、廊下を行ったり来たりする春風お姉ちゃんに蛍お姉ちゃんの足音で――

春風お姉ちゃんに蛍お姉ちゃん――それに洗濯機、みんな朝からとっても忙しそうです。
でも、とっても忙しそうなのに、蛍お姉ちゃんたちの顔は何だかうれしそうでした。

蛍お姉ちゃんはいつも笑顔ですが、今日は特別です。
ユキはなんだか、お姉ちゃんの気持ちがわかってしまいます。

うふふ――
そうです!

今日は――みんな待ってた晴れの日です!


「春風ちゃん、カーテンも洗っちゃいましょうか?」
「うーん、干す場所がもう無いかも……?」
洗われた洗濯物は春風お姉ちゃんたちが待つお庭に運ばれます。
お庭にはベッドのシーツやカバー、色んな洗濯物――
見渡す限り…は、少し言い過ぎかもしれませんが、たくさんたくさん並んでいました。

「『春すぎて夏来るらし 白栲の衣干したり天の香具山』――と言ったところかの?」
通りがかった観月ちゃんがお庭を見て、なにか不思議なことを言います。
「…?、どういう意味ですか?」
「うむ、そうじゃな……
初夏の初々しい葉の緑色と、干された衣の白色とが映えて、夏の到来を教えてくれる……といった歌じゃな」
「ふうん――なんだかちょっと分かる気がします」

観月ちゃんの言うとおり、洗濯物のまっしろと、芝生のみどりに木のみどり色、それに――きれいな青色の空!
全部が全部すごくきれいで、ユキには輝いて見えます。
えへへ――おかしな感じですが、なんだかどきどきしてしまいます!
ユキも、もっと――


「最後のカゴ持ってきたよー…っと」
「ありがとうございます。これで最後ですね?」
「うん、お願い」
「はい!任せてください!」

よいしょっ、と蛍お姉ちゃんはお兄ちゃんからカゴを受け取ると、洗濯物の森の中に戻っていきます。

「お兄ちゃんお疲れ様です」
「ありがと、ユキもお手伝い?」
「いえ、ここでお姉ちゃん達のことを眺めてたんです」
「そっか、なかなかに壮観だもんなぁ」

お兄ちゃんはユキの隣に立って、ふぅと一息をつくと眩しそうに庭を眺めます。
おでこに少しだけ汗がにじんでいました。

「よし、じゃあ俺も暇になったし、少し散歩でもしてくるよ」
「お散歩ですか?」
「うん、こんなにいい天気だしね外に出ないともったいなくて」
お散歩……そうです、お兄ちゃんとなら――
「それで――」
「あのっ、お兄ちゃん!」
「うん?」
「えっと、あの――ユキも連れて行ってくれませんか?」

ちょっと勇気をだして、お兄ちゃんにお願いをします。
お兄ちゃんはユキの言葉を聞いて少し驚いたような顔をしていました。
お願いしてしまいましたが…急に不安になってしまいます。

「ダメ、ですか……?」
「ううん、行こう!」
「ホントですか?」
「ホントも何も、俺もユキも誘おうとしてたところだからね」
お兄ちゃんは笑って言います。
「え?あっ、遮っちゃってごめんなさい……」
「はは、それくらいで謝らないの、じゃあユキ、改めて――」

優しく笑って――今度はお兄ちゃんから、お誘いしてくれます。

「俺と一緒に散歩に行こっか?」
「はい!」

(続く)

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